蠍星・羊星
「羊星・蠍星」
                原作 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
                作  結城 翼
                    
☆登場人物
ジョバンニ・・・・・「からっぽ」の隙間に「蠍」を飼い始めた少年。生け贄の羊のペンダントだったはずだが、いつの間にか蠍のペンダント。
カンパネルラ・・・・「からっぽ」の隙間を吹き渡っていく風を聞き続ける少年。透明で青い切符。
ブラックバード・・・飛べなかった飛行士。けちな優秀行商人のブリキのペンダントを持つ。
大学士・・・・・・・なんか、掘っている人。ジョバンニに琥珀の蠍を与える。先生だったかもしれない。
助手・・・・・・・・その助手。単なる助手。
青年・・・・・・・・知識は「力」であることを知っていただけの人。透明で青いペンダントの持ち主。
かおる・・・・・・・蠍の星と空っぽが生み出す力を知っている。それでも透明で青いペンダント。
ザネリ・・・・・・・普通の人。意外に「世間的に」まともであるかもしれない。
車掌・・・・・・・・寡黙。
先生・・・・・・・・普通の先生。公平だが冷たい教室の主宰者。
ジョバンニの母・・・ジョバンニをある意味で縛っているかもしれない。
カンパネルラの父・・独善的。功利的でもある。カンパネルラに大きな期待をかける。それなりの紳士。
夜の怪物たち・・・・みんなの「からっぽ」の中にすむさまざまなもの。


Ⅰプロローグ

        満天の星。大きな天球図がある。
        ケンタウルス祭の音楽が流れる。
        カーニバルのようなパレードと「ケンタウルス露を降らせ」という声が聞こえる。
        夜の怪物たちが、さんざめいている。ジョバンニはその中にいた。
        何かペンダントのようなものをまわしあって、楽しんでいるようだ。
        だが、ジョバンニがとった瞬間、みんながそっぽを向いてしまう。
        突然、「ジョバンニ、ラッコの上着が来るよー。」「ジョバンニ、ラッコの上着が来るよー。」
        凍り付く、ジョバンニ。
        世界は、敵意に満ちていた。
        孤立するジョバンニ。回そうとするが誰も受け取らない。
        「ジョバンニ、ラッコの上着が来るよー。」でやけどをしたように引っ込む。
        呆然と一人立つ、ジョバンニ。
        回されていたペンダントをじっと見て、やがて首にかける。ダビデの星のようになっている羊のペンダント。
        じっと見つめているカンパネルラ。
        ジョバンニは家へ逃げるように帰っていく。        
        カンパネルラは奇妙な表情で去る。
        夜の怪物はひとしきり巡る。

Ⅱ羊の食卓

        潮騒が引くように祭りの雰囲気は消える。
        静かな音楽。
        食卓があり、母がいる。
        ジョバンニが帰ってくる。
        気持ちを入れ替えて。
                
ジョバンニ:ただ今。具合悪くなかったの。
母  :ああ、ジョバンニ。今日は涼しくてね。私はずうっと具合がいいよ。
ジョバンニ:今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。
母  :ああ、お前先にお上がり。あたしはまだ欲しくないから。
ジョバンニ:母さんの牛乳は来ていないんだろうか。
母  :こなかったろうかねえ。
ジョバンニ:僕行ってとってこよう。
母  :ああ、あたしはゆっくりでいいんだからお前先にお上がり。
ジョバンニ:では、僕食べよう。

        ジョバンニ食べ始める。
        遠くで汽笛が鳴る。
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