Jewelry Box






Jewelry Box

     娘

     老婆

     男











     舞台中央に娘。手には質素なつくりの小箱。それには不釣合いなほど大きな赤     い石がついている。語り始める娘。

娘    昔地上に二人の男がいました。二人は兄弟で、兄は先に考える人という意味の     、弟は後で考える人という意味の名前を持っていました。あるとき二人のもと     に大神ゼウスのところから一人の女がやって来ました。女はとても美しく二人     はそれに目を奪われました。ところが兄のほうはその名の通りに先に考える人     でしたのでゼウスからの贈り物には何か裏があると考え女に近づきませんでし     た。しかし弟は兄とは違い後で考える人でしたのですぐさま女の魅力におぼれ     てしまいました。ある時、弟は女の持ってきた壺の事が気になりました。壺の     事を女に尋ねると女が答えました。『ゼウス様から預かった大切な壺です。で     すが決して開けてはならないと言われています。』と。弟は非常に悩みました     。がとうとう彼と女は壺を開けてしまいました。するとどうでしょう、壺の中     からは、病、悪意、妬み、嫉み・・・。様様な『悪』が飛び出していきました。      そして地上にありとあらゆる『悪』が蔓延りました。しかしたった一つだけ壺     の中に残ったものがありました。それは『希望』でした。・・・そう、女の名前      はパンドラ。そして彼女の持っていた壺こそがあの『パンドラの壺』、もっと     もパンドラの箱と呼んだほうがしっくり来るでしょうが、あらゆる災厄のつま     ったパンドラの箱だったのです。
     さて私の持っているこの箱。・・・残念ながらパンドラの箱ではありませんが、      この箱は私がある女性から預かっているものです。この箱の中には一体何が詰     まっているのでしょう。そしてこの箱を開けた時最後に残る物は一体・・・。

     娘ゆっくりと箱のふたを開ける。それと共に落ちてゆく照明。暗転。
     明かりがつくとそこは質素なつくりの部屋。イメージとしては童話などに出て     くる森の中の小屋。木製のテーブルに木製の椅子が二脚、質素なつくりのベッ     ドこの三点はある事が望ましい。娘と老婆がいる。娘は手に鍋を持っている。     料理が出来上がった様子。

娘    さぁ、おばあちゃん。出来ましたよ。
老婆   ふん。どうせ、いつもの野菜ときのこだけのスープなんでしょ。もう食べ飽き     たよ。
娘    そんな事言わないで。これだけでも十分じゃない。町の方じゃ戦争や病気でろ     くに食べ物も無い状況なのよそれに比べればまだ天国よ。
老婆   こんな所が天国なんならわたしゃ地獄に行った方がましだよ。
娘    そんな事言わないの。地獄に行きたいだなんて、神様が聞いてらっしゃるわ。     ・・・本当に天国に行けなくなっちゃうわよ。
老婆   もともとわたしゃ天国なんて行けやしないんだから、今さらねぇ。
娘    まーた始まった、おばあちゃんの天国に行けない病が。
老婆   ふん。
娘    食事にしましょう、ね。

     皿にスープをよそう娘。不愉快そうだがテーブルにつく老婆。用意が整う。

娘    それじゃあいただきましょう。

     食事の前の祈りをする二人。祈りを終え食事をはじめる。しばし無言。スプー     ンと皿が当たる音だけが聞こえる。やがて口を開く娘。

娘    ねぇ、おばあちゃん?
老婆   ・・・。
娘    前にも言ったと思うけど・・・。
老婆   街の方に住むって話しかい?
娘    ・・・ええ。
老婆   じゃあ、私も前に言ったと思うけど・・・。
娘    やっぱり、その気は無いの?
老婆   前にも言ったろ、ここを離れる気は無いって。
娘    そう・・・。
老婆   そう。

     二人無言。
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