朗読劇(一人芝居)「竃猫にも被爆手帳を」
-原爆をあびた猫-
朗読劇(一人芝居)「竃猫にも被爆手帳を」
−原爆をあびた猫−
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2009.1.7(初稿)
2024.9.7(最終稿)
2024.9.8
【あらすじ】
宮沢賢治の童話『猫の事務所』に登場する竃猫(かまねこ)が、広島で被爆します。
竈(かまど)の中で寝ていたおかげで一命は取りとめますが、
何が起こったのかわからないまま家をとびだした竃猫は、ひそかに好意を寄せている
臨時職員の玉さんが心配で、
事務所に駆けつけます。
途中の焼け野原で、彼が何を見て、何を考えたか。
そうして、ようやくたどり着いた事務所に猫影はなし。
早出していた玉さんは、どうなったのか。
裏庭では、ピカ・ドンを生きのびた蜘蛛があたらしい巣をかけています。
事務所に戻った彼に電信が届きます。
発信人は竃猫の生みの親、宮沢賢治先生。銀河鉄道の駅で望遠鏡を覗いていて、
地球がピカッとひかるのを見たというのです。何ごとが起こったのかと訊いてきたのです。
竃猫は賢治先生にどんな報告をしたのか。
また、彼らの運命はそれからどうなったのでしょうか?
詳しくは見てのお楽しみ。
追伸
この脚本の根底にあるのは、原子爆弾を絶対悪ととらえる考え方です。だから、当時の戦況も、
アメリカも出てきません。加害被害といった相対的な見方、あるいは命の数量化から
距離を取りたかったからです。
劇の中にも出てきますが、山川草木悉有仏性という言葉があるように、
生きとし生けるものはすべて仏性をもっているという考え方があります。原爆というのは、
それらすべてのものを傷つけ、滅ぼす悪以外の何者でもないと思うからです。
【では、はじまりはじまり】
登場人物は竃猫(かまねこ):汚らしい猫の扮装で登場
舞台に竈(かまど)が据えられ、上に釜(かま)がのっている。竈の反対側奥にスライドの映写幕が立てかけられてあり、
そこに原爆ドームや焼け野原の写真などが適宜映写される。小道具としては、蜘蛛の巣アンテナの模型。
(竃猫が舞台に登場して)
竃猫 「あーあ、まだ眠い眠い、夕べは仕事を持ち帰っていて、寝るのも遅かったし、
蒸し暑くて寝苦しかったからな、まだ寝足りないな。……
ん?、真夏のこんな蒸し暑い夜になぜこんな竈の中で寝るのかって? それはね、私は、宮沢賢治先生の『猫の事務所』
に登場する竃猫だからであります。竈の中がとても好きなんです。
暗ーい竈の中にいるとなぜか安心できるんだな。だから使わなくなったこの古い竈(かまど)を私の住みかにしている。
冬場はもちろん夏はとくに土が冷たくてとても気持ちがいいんだ。……
分かってもらえるかな? わかんねぇだろうにゃー」
(と自己紹介を続ける)
竃猫 「それはそうとして、私の勤務している猫の事務所は、ご存じでしょうか、ヒロシマの路面電車、
あの比治山下停車場の近くにあります。われら猫社会の歴史と地理をしらべる、まあ、
いわば統計局といったところです。
私は、そこの書記をやっております。
書記といえば、みな、短い黒の繻子の服を着て、
大へんみんなに尊敬されていますからして、何らかの都合で書記をやめるものがあると、
あとがまをねらってわれもわれもと押し寄せます。
それはそうなんですが、実際問題としては、この事務所の書記はいつもただ四人と決まっていますから、
たくさんの中で一番字がうまく、また一番立派な詩を詠めるものがえらばれるのです。
事務所長は黒猫で、少々天然呆けの嫌いがあって、見かけは少し耄碌しているようですが、
そのまなこはキリッとしていて、中に銅線が何本も張ってあるかのように、
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