NO-W-HERE
『NO-W-HERE』“ノーウェアー・ナウヒアー”
屋上に一人の男がいる。フェンスに寄りかかり空を見上げている。
虚ろな表情のまま太陽に手を伸ばす。
中空で拳を作り何かを掴む振りをする。
手を上に上げたまましばらく空を見つめているが、手がぶらりと下に落ちる。
力ないまましばらく空を見つめているが、手がぶらりと下に落ちる。
ふと、思い出したように、ポケットから携帯電話を取り出して画面を見つめる。
メールを打とうとするが、すぐに思い留まって携帯電話をポケットにしまう。
男は再び視線を空に移し虚ろな目で呆っと空を見つめる。
屋上の扉が開き女が顔を出す。
しばらく興味深そうに男を観察した後、小さく笑んで男に話しかける。
女「珍しいわね、あたし以外の人がいるなんて。おにーさん知ってる? 屋上
は立ち入り禁止なのよ」
男「……そういうお前はどうなんだよ」
女「あたしは特別。そしてここはあたしの特等席。さあさ、立ち去ってちょう
だい」
男「うるさい奴だな。お前がどっか行けよ」
女「ここはあたしのものなの。だから勝手に荒らさないでくれる?」
男「誰が決めたんだよ、そんなこと」
女「あたし」
男「…………」
女「そういえばさ、どうやって上がったの? 鍵かかってたでしょ?」
男「あ? カギなんてかかってなかったけどな」
女「ウソ!?」
男「嘘ついてそうすんだよ」
女「あ、もしかしてあたし、鍵かけ忘れちゃった?」
男「あんた、屋上の鍵持ってるのか?」
女「ううん、持ってないわよ」
男「は?」
女「だから、まず窓をぶっ壊して、そこから侵入。そして内側からカギを開け
ちゃってそのまま忘れてしまい、そこにあなたが入ってきたというわけよ」
男「丁寧に説明せんでもいい。なんて女だ。窓をぶっ壊して侵入だあ? それ
って犯罪じゃないか」
女「バレなきゃ罪には問われないわ」
男「お前なあ……」
女「何よその目は。多少の危険を冒してでも、退屈な生活に刺激が欲しいとは
思わない?」
男「…………」
間
女「……どうしたの? 急に黙り込んじゃって」
男「別に、なんでもねえよ」
女「ねえ、おにーさん。あなた、どうしてそんなにつまらなそうな顔してるの?」
男「な……」
女「だってあなた、すごくつまらなさそう」
男「いちいちわけのわからんことを言う女だな」
女「あたしね、屋上が好きなの。ここから見える景色が好きなの。ここでこう
やって、街を見下ろしながら、風に当たるのが好きなの。風に当たってると
ね、あたしはここにいるんだーって、実感できるんだ。
ほら、太陽がこんなに眩しい。空が青くて、鳥も飛んでて、風がきもちい
い! あたしは生きてるんだぞーって、そう思うんだ。
ねえ、こうやってここで手を伸ばせば、太陽に届きそうな、そんな気、し
ない?」
男「屋上だから、太陽に近いって?」
女「そう」
男「ぷぷ……ははは、ははははは……」
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