透明人間の国、その1
〜透明人間と不透明人間〜第二話
『透明人間の国、その1』
ここは透明人間の国。
人間はみんな透明。役者二人は全身白い服を着ている。
A「僕はもう嫌なんです。誰も見えない、何も見えない、自分すら見えない。もうこんな
人生はたくさんだ。すべてが透明で、全てすり抜けていく。何も手に入らない。僕の心
は透明で、きっと何もないんだ。どうして僕は、透明人間になんて生まれてきてしまっ
たんだ!」
B「仕方がなかろう。君には、運がなかった。そして私にもな。これが透明人間の国に生
まれた我々の宿命だ」
A「でも僕は嫌だ。ここから抜け出すんだ。こんな世界から。そうでしょう、博士!」
B「そう大きい声を出さんでも聞こえておる。私はここにおるぞ」
A「透明人間は、互いがどこにいるのかさえもわからない。こんなに悲しいことはない。
ねえ博士(全然違う方向を向く)」
B「こっちだ。全く、変わった奴だな、お前は。人間になりたいなんて」
A「そんなにおかしいことでしょうか」
B「普通は思わんよ、不透明人間になりたいなんて」
A「でも博士(全然違う方向を向く)」
B「こっちだ」
A「僕は思うんです」
B「こっちだ」
A「人は、自分の姿や他人の姿をとらえて初めて、そこに存在することができるのだと」
B「なんと哲学的な問いかけだ」
A「だから博士、僕には不透明人間になる薬をください!(全然違う方向を見る)」
B「こっちだ」
A「博士!」
B「よいのか? 人は人との関係を絶つために透明になったのだ。それを今さら……」
A「でも僕は、こんなのもう嫌なんだ!」
B「……わかった。そこまで言うならくれてやろう、私の最高傑作をな」
A「博士!」
B「こっちだ。……そのへんにあるビーカーの中に薬が入っている」
A「博士……どこですか?」
B「そのへんにあるだろう」
A「見えません!」
B「そりゃ透明だからな」
A「どこですか?」
B「自分で探せ」
手探りで探す。
しばらく地面をはいつくばって発見!
A「あった……」
一気に飲み干す。
B「後悔はないか?」
A「あるわけがない。僕は、新しい自分を見つける。未来に向かって歩き出すんだ!
あ……見えてきた。足が、手が、胸が……あれ? なんだ? なんだこれ!?」
B「どうした?」
A「からだが、からだが!」
B「からだが?」
Aに緑サス。
A「すっげー緑」
B「一応不透明だろ?」
暗転。
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