ボクにキスして
「ボクにキスして」    作 結城翼


★キャスト
    ヒカル・・・                
    伽耶・・・・                                     
    イオ・・・・                                         
    リョウ・・・                           
    ナツミ・・・                                     
    飛行士・・・                                             
    サクラ・・・                                        
    薫子・・・・                                       
    


            Ⅰプロローグ 世界を見る少年
            
                    核の冬に冒されたブリザードの吹きまくる光のない街がある。
                    広場がある。ブランコと、作り掛けのジャングルジムがある。
                    雪の降る中からなつかしいサーカスの、どこか失調したジンタの響きがとぎれとぎれに流れる。
                    双眼鏡で世界を見続けるヒカルがいる。黙々と、ブランコをこぎ続ける伽耶。
                    やがて。
            
            ヒカル:聞こえる。
            
                    伽耶、答えない。こぎ続ける。
            
            ヒカル:聞こえるね。
            
                    伽耶、振り返らずにこぎながら。
            
            伽耶 :何が。
            ヒカル:ジンタだ。あれはきっとサーカスだね。
            
                    ジンタがかすかに流れてくる。
            
            伽耶 :ああ、あれ。
            ヒカル:驚かないね。
            伽耶 :どうして、驚くの?。
            ヒカル:だって、サーカスなんて今じゃどこにもないよ。
            伽耶 :サクラランドの跡だもの、ここは。ジンタだって流れるよ。
            ヒカル:まるで幽霊だね。
            伽耶 :こんな廃墟じゃ、音楽だって化けて出るさ。(笑う)
            ヒカル:伽耶。
            伽耶 :何。
            ヒカル:言い方にも色ってものがあるんじゃない。
            伽耶 :色?(ブランコを止めて、苦々しげに)こんなくそったれの空のどこにあるのさ?
            
                    二人眺める。黒びょうびょうたる空が広がる。
                    かすかなジンタの音が流れる。
            
            ヒカル:・・身も蓋もない、いいかただ。
            伽耶 :そりゃ、そりゃ。14でくたばりゃ十分身も蓋もない世界だろ。
            ヒカル:悲観しすぎだよ。
            伽耶 :100年生きてる子なきジジイにゃいわれたくないね。
            ヒカル:(笑う)ひどいね。・・でも違いないか。
            
                    ヒカルはまた世界を見始める。
                    間。
                    伽耶、再びブランコをこぎはじめる。
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