恋をせむとやうまれけむ
「恋をせんとや生まれけむ」
                作 結城 翼
    
★登場人物

女 1・・・患者らしい。
女 2・・・看護婦かも。
男  ・・・医師だと思う。
影たち・・・影かな。
      すべては、五月の風のように定かではない。



Ⅰ五月の風

        たゆとうような音楽とともに幕が上がる。
        格子状に組み合わされた、白い垣根。中央は、アーチになっている。
        銀の花々が咲いている。
        白いベンチ。
        女が一人、座って本(赤いカバー)を読んでいる。
        真っ青な晴れた空。
        初夏であろうか、さわやかな白い服。
        
女 1:昔、男ありけり、その男、身をえうなきものに思いなして、京にはあらじ、あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり。

        ふっと、止めて。小さい間。

女 1:軟弱な男。

        また、読み始める。

女 1:もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。

        止まって。

女 1:つるむなきやなにもできないの。ひとりでやりなさい、ひとりで。

        また、読んで。

女 1:ある人のいはく、「かきつばた、という五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ」と、いひければ、よめる。から衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ。とよめりければ、みな人、かれいひの上に涙落としてほとびにけり。

        あきれたように。

女 1:めそめそしない。なくぐらいなら、最初から東下りなんかやめればいい。だからだめなの。男って奴は。
男  :そんなにダメ?
女 1:だめ。

        振り返らずに返事をする。
        男は、アーチをくぐってやってきた。
        めがねをかけている。

男  :いい天気だね。
女 1:ナンパしようたってだめ。

        男笑う。

女 1:おかしいの?

        詰問する。

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