麦に水を
「麦に水を」
作 結城翼
登場人物
7・・セブン
9・・ナイン
0・・ゼロ
Ⅰ プロローグ
世界は冷たく深い夜の中にある。
人は残酷で固い殻の卵の中にいる。
どこかで足音がしている。
やがて足音は大きくなり消える。
舞台中央にテーブル。椅子が一個。
テーブルの上には木箱に植えられた麦が一本ひょろひよろっと立っている。
上手に粗末なベッドらしきものが一つある。
引き割り幕が引かれ、背後の空間に大きな木組みの鉄条網らしきものが浮かぶ。
暗い夜。
麦の上に一筋の光が差し込んでいる。
女が一人、コップの水を大事そうに注いでいる。
少し飲もうとする。
ためらうが。
セブン:一口だけ。
一口飲む。
ふっと息をついて、また少し注ごうとしたとき。
鐘が鳴る。
女は、びくっとして数えながら聞き耳を立てるが、ふっとドアを振り返る。
その瞬間、ドアが開く。
女が少し押されるように入ってくる。
くるりと反抗するようにドアを向く。
男がコップをひとつ押しつけるように渡す。
抵抗するが押しつけられる。
アルミのコップ。
水はない。
ドアが閉められる。
新しく入ってきた女は、ドアの方にむいたまま、立ち尽くす。
コップを持つ手は震えているかもしれない。
間。
見ていたが。
コップを置いて。
セブン:座ったら。
くるっと振り返る。
無言。
セブン:ほら。
ナインは、椅子を新しい女のほうに差し出す。
ナイン:私?
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