いつか空飛ぶクジラとなって
「いつか空飛ぶクジラとなって」      作:結城 翼 
                  
★登場人物

シンスケ・・
最後の猫・・
のんのん猫・・




#1プロローグ 沈黙の海

        暗闇の中で遠い潮騒の音。
        シャーッというノイズが混じる。
        モールス信号のS.O.Sが交錯した。
        モールス信号と潮騒が交錯する中からどこからともなく息づかいのようなメッセージが聞こえて来る。

声  :全ての人々へ。これがわれわれの最後の叫びだ。今後は永遠に沈黙する。全ての人々へ。これがわれわれの最後の叫びだ。今後は永遠に    沈黙する。
   
        シャーッとノイズがかかってすべてはぷつっと消える。
        ぼんやりと明るくなる。
        再び遠い潮騒の音が聞こえている。
        黄昏の海辺。
        舞台上手やや奥に不思議なことに梯子が降りてきている。
        シンスケが梯子を降りてきた。そうしてその前でシンスケが座って、何かを聞いている。
        下手奥には海辺にありそうな、ちょっと傾いたいかにもぼろい自動販売機。
        下手前の方には、白い金網のこれ又どこかにあるようなゴミ箱。

シンスケ:海から不意にその声がやってきたとき、僕は世界を滅ぼす準備に忙しかった。トトト・ツーツーツー・トトト。SOS。だれも使わな    くなったモールス信号だ。もう、だれもその時代遅れの声を聞くことはなく、だれも発することはない。でも、その声は辛抱強く呼びか    け続けていた。トトト・ツーツーツー・トトト。世界で最後のモールス信号はいつまでも世界を駆けめぐる。トトト・ツーツーツー・ト    トト。トトト・ツーツーツー・トトト・・・。誰も聞いていないその声の孤独さに、僕はたまらなくいとおしくなり、こういった。僕が    聞いてるよ。すると、海からの声は満足したように呼びかけるのをやめ、ひっそりと静かになった。こうして、確かに1999年7の月。    世界はモールス信号とともに滅びてしまった。

        シャーっという軽いノイズ。

シンスケ:世界は本当に静かだ。海からの声はもう聞こえない。

        潮騒の音が少し大きくなって。
        シャーっと言う音が少しした。

#2最後の猫    

最後の猫:と、思うのがど素人のあさはか。

        と、びくっとした。

シンスケ:なんだ、最後の猫か。
最後の猫:何だとは、気のない挨拶だねえ。
シンスケ:だって、そんな気ないもの。
最後の猫:そんな気があったらちょっと嫌だな。
シンスケ:ちょっと?
最後の猫:うーん。かなり。
シンスケ:ほらみろ。
最後の猫:けほん。(と、空咳をして)どうだい。くたびれた少年。
シンスケ:シンスケ。
最後の猫:どうだい、くたびれた少年のシンスケ。
シンスケ:くたびれたはよけい。
最後の猫:おいらの主観だ。ほっとけ。
シンスケ:僕の主観じゃ元気バリバリだ。
最後の猫:それで?げっそりしてて、どんよりしてて、目はうつろで、足はなよなよ、手はへろへろ、顔はほにゃらら、耳は福耳だろ。
シンスケ:なにそれ。
最後の猫:いや、どんよりどよどよしてるなっていってるわけよ。くたびれた少年のシンスケ。
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