蜉蝣の記
「蜉蝣の記」
            作 結城 翼

    そのむかし、大学のチャペルの白い壁に映されていた自主上映の「禁じられた遊び」の想い出に。
    あのときは確か、終われば白い雪が舞っていた。



★登場人物
シンスケ・・母の療養についてきている
葉月・・・・ふらりと現れた蜉蝣のような少女
カヲル・・・シンスケの従姉妹



Ⅰオープニング

        ドイツ歌曲の美しい旋律。
        幕が上がる。
        林の中の広場。晩夏の黄昏。
        潮騒の音もかすかに聞こえる。
        少年(シンスケ)がひとり、麦わら帽子をかぶって寝ている。
        そばに、カセットデッキ。そこから音楽は聞こえてくる。
        少女(カヲル)がひとり登場。じっと見ている。
        音楽がやがて止まる。
        潮騒の音、ヒグラシの音。
   
カヲル:ねえ。

        少年は答えない。

カヲル:ねえ。

        答えない。
        少女は、首を振ってそばに座る。
        少年の手がカセットデッキにのびる。
        音楽が再び始まる。
        少女、カセットを止める。

カヲル:聞いてるの、シンスケ。

        少年の手が再び伸びて、カセットを押す。
        曲が始まる。
        少女は、憤然として立ち上がる。
        少し待つ。

カヲル:カヲル、帰るよ。

        少し待つ。
        少年は何とも言わない。曲だけが流れる。

カヲル:ねえ。

        少年は相変わらず無言。

カヲル:バカっ。

        だつと、少女は去る。
        曲が少し大きくなる。
        むっくり半身を起こす少年。
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