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たいくつな口紅

「たいくつな口紅」作　田辺剛

【登場人物】原野／田口／桐島

とある全寮制フリースクールの一室。その部屋では来客に対応したり共同生活をする生徒たちが食事をしたり、くつろいだりする共有スペースだ。部屋着の田口が漫画を読んでいる。

原野　（現れて）あれ、着替えないの。
田口　着替えるけど。
原野　（窓から外を見て）なんか曇ってきたね、大丈夫かな。
田口　……。
原野　ていうか、やばくない？　花火大会って雨降ったら中止？
田口　さあ。
原野　誰も気が付かないくらいだったらやるよね。
田口　晴れるんじゃないの？
原野　え？
田口　天気予報、今夜。
原野　って言ってたんだけどね。だって、ほら。
田口　（空を見る）ああ。
原野　えー、ちょっとそれ困るんだけど。
田口　中止かどうかってどうやったら分かるの？
原野　さあ。（ポケットから携帯電話を取り出して）メールで聞いてみようか。
田口　誰に？
原野　ようこちゃん。

原野はメールをうちはじめる。

原野　中止になったらどうする？
田口　どうするって？
原野　せっかく楽しみにしてたのにね。
田口　仕方ないよね。
原野　けど、一年に一回だよ、毎週やってるんだったらいいけど。
田口　なにが。
原野　いや、花火大会。毎週やってくんないかな、ね、だったらいつでも好きな時に行けるし。
田口　ありえないよね。
原野　それはそうなんだけど……着替えないの。
田口　着替えるよ。

沈黙。メールを打ち終わって原野は田口をじっと見ている。

田口　え。
原野　なに。
田口　だって出かけるの、六時でしょ。
原野　そうそう。
田口　まだ三時間もあるやん。
原野　三時間はないよ、だってもう三時過ぎたし。
田口　十分だけやん。
原野　けど、過ぎてる。
田口　それはそうやけど。
原野　あ、ほら十一分。三時十一分。
田口　けどほとんど三時でしょ。
原野　なあなあ田口くん。時間っていうのはね、少しずつ進んでいくもんなんだよ。ボーっとしてたらどんどん先に進んでいく。僕たちはさ、今までさんざんボーっとしてきたんだから、その分取り返すくらいの勢いがいるんじゃないかと、僕は思うんだよね。がんばってさ。
田口　無理するとまた疲れちゃうよ。
原野　だから今日は別に疲れるとかじゃなくてさ、そういうことじゃないやん。みんなで楽しく行こうっていうことなんだから。
田口　……。
原野　ちょっとちょっと。盛り下げないでよね、（携帯電話を取り出して）あ、まあとりあえず集まりましょうって、ようこちゃん。
田口　雨降っても？
原野　そうだよ。
田口　えー。
原野　ご飯食べるとか、カラオケ行くとかなんでもあるわけやん。
田口　えー。

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