従軍慰安婦KEIKO
従軍慰安婦KEIKO ver.1.5
第一章 倉光さんのこと
福岡市から旧筑豊炭田地帯に向かう国道べりのモーテル。
カップルが使った後の部屋を片づけている初老の雑役婦「慶子」。
声 「慶子さん?・・こんにちは、私です。」
慶子 「やっぱり、来なさったね。
やれやれ、しょうがなかとね。今日は話さんと帰ってくれんとでしょ・・・・・?
なにしろ昔のことだし、今まで誰にも話さんと来たことだけん、
・・夕べ、大方思い出せるようにノートに書いてみたとばい。・・・暑かね。」
慶子、ノートを手に椅子に腰を下ろし、ポケットからハンカチを取り出し汗を拭う。
慶子 「ウチが、なして中国ば、行ったか・・・あれは、昭和12年の9月7日じゃったね。
その頃ウチは、大浜町の遊郭・・遊廓云うても・・柳町みたいな赤線ていう国の認めとった、
ちゃんとした遊廓じゃなくて、許可なしの営業をしとった青線のほうじゃけど、
その大浜町の朝富士楼という小さな店におったとよ。
港に着く魚臭いポンポン船の漁師か、近海航路の船員、油臭い町工場の工員さんを相手に、
身体を売っとったですよ。
でも、日曜だけは汗と、皮に付ける油の臭い、兵隊さんの臭いが、部屋にしみこむとです。」
若き日の慶子=ケイコがご飯と味噌汁を食べている。慶子眺める。
慶子 「柳町の遊廓じゃ、三日に一度は鰯の煮付けも出とったいう噂ばってん、
朝富士楼じゃ匂いもせんかったとです。
薄ーい味噌汁と麦飯に、タクワンが付けばいい方だったね。
だから、お客さんが支那そばでもとってくれたら、もう大感激でね。
安珍清姫でサービス、サービス・・。
でもそんなお客さんは月に一度寄る捕鯨船の人くらいだけどね・・・
そんな夕食を食べ終わった頃に、ウチの恩人が、倉光武夫さんが店にあがったとよ。」
女将の声「ケイコちゃーん、お客さんよ。」
ケイコが片付けて歩いて行くと、倉光武夫が座っている。
倉光 「久しぶりじゃったね、どうね元気ね。・・・金はある。二日ほど居続けばさせてくれ。
・・いや、召集令がきてな、9月10日に入隊しろ言うとばい。」
ケイコ「お金ば無駄になったとばい・・・・」
倉光 「あの70円か・・・よかばい。」
慶子、客席に向き直る。
慶子 「あれは2年前のことでした。
倉光さんはウチのせいで下士官候補採用試験な、落ちなはったですばい。
・・・ウチが淋病ばうつしてしまったせいで・・・
でも、倉光さんが除隊した後で連隊は満州へ出発して、
ソ連との国境で明日をも知れぬ任務に就くことになり・・
倉光さんはウチのせいで命拾いばしたと言いなはって、
・・・ウチの借金の70円を払ってくれなはったとです。」
倉光 「あん時は、お前のおかげで助かったと思うたが、やっぱりいけんかったばい。
いよいよ支那戦線に連れて行かれるとばい。
歩兵24連隊の留守部隊を中心に新しい連隊が編成されることになったとね
・・どうも、わしのカンじゃ、今度はいかんようだ。
上海戦線じゃ中隊単位で全滅した部隊がでた言うからな。
それで、ワシもみんなと一緒に日本の女の抱き納めに来たとばい。
・・・ワシの事より、お前はどうして自由の身になったとに、ここからでていかんとね?
また、借金ばこさえたとね?」
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