ゴースツ
入浴後の幻
ゴースツ 〜入浴後の幻〜
植田聡平
登場人物
女
男
編集者(電話の声のみの登場)
女の部屋。夜。
女、ジャージ姿で頭にタオルを巻いて呆然と立っている。
女(声) 年末、溜まっていた仕事を終え、久しぶりに休みが出来て、あとは眠るだけの
私の目の前で……
机の上の携帯。鳴っている。
女(声) 携帯が震えている。
女、顔のアップ。呆然とした様子。
携帯、震えている。
女(声) これはいったいどういうことなのだろう。
携帯、震えている。
女(声) この携帯は、私に何を求めているのだろう。
女、携帯を手にとる。『Eメール一件』の表示。
女、メールを開く。
『急な話で申し訳ありませんが、再来週の『BOYS BEAN』のシナリオ、明朝八
時までにお願いします』
女 明朝って……。
女、時計を見る。十二時二十五分。
女 ……もっと早く言えよ……!
女、しばらく呆然としているが、やがて意を決したように立ち上がり、
パソコン、タバコ、灰皿、コーヒーと手早く用意をはじめる。
暗転。
女(声) 名前、安藤浩子。職業、プロのゴーストライター。
タイトル。
灰皿。タバコで埋め尽くされている。
猛烈にキーボードを叩く指。顔。眉を潜め、くわえタバコ。
ふと、指が止まる。こめかみを指で押すしぐさ。頭が痛そうだ。
女 考えろ……大丈夫。まだ四時間ある。
時計。三時四十五分。
女、しばらく頭を押さえている。突然叫び始める。
女 あー、思いつかない! だめだだめだ! 畜生! 時間が無さ過ぎる!
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