Kill her! 彼女を殺せ!
『Kill her! 彼女を殺せ!』
植田聡平
登場人物
女1(作家)岡部まりこ
女2(ヒロイン)立原香奈
女3(ムードメーカー)間清美
男1(オタク野郎)北野弘樹
男2(不良)松村敏和
男3(犯罪者)
男4(編集者)
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暗闇の中に一人、女1が立っている。
彼女は作家。
女1 かつて、私の通う小学校には伝説があった。
女1の周りに光が集まる。
女1 紫のタンポポ。それは学校のすぐ裏にある小さな山に、十年に一度だけ訪れる『紫の日』に生
えてくると言われている、小さな幸運の証。かつて、幼い頃から不治の病にかかった女の子が、
その幸運の証を見つけることで病を癒すことが出来たのだと、一部の生徒たちのあいだで言い
伝えられていた。もちろん教師たちのあいだで信じているものなどいないし、いくら小学生だ
からって、このあまりにリアリティの乏しい伝説を真面目に信じてる者は少数だっただろう。
だが、私は……変な言い方になるが、この伝説が好きだった。暗くて不気味な学校の七不思議
のなかで唯一、誰かを救う、やさしい伝説。私は、口裂け女よりも人面犬よりも、こんな伝説
こそ真実であって欲しいと願っていた。
女1の隣に、男4が現れる。
男4は原稿用紙とにらめっこしている。
女1の独白は続く。
女1 月日は流れた。私は高校生になっていた。小さな頃から勉強は苦手ではなかった私は県下一の
進学校に入学し、より難解になった数学に四苦八苦しながらも、基本的には中学の頃と変わら
ない学園生活を送っていた。そんなときだった。彼女に出会ったのは。
男4 うん。つまんないねえ。
明かりが灯る。
舞台はとある文芸雑誌の編集部。
女1の独白は、その作家の作品だったようである。
女1、予想していた反応らしく、さほど驚きもせずうなだれている。
男4 先生の作品はですね。読めるんですよ。オチが。あれでしょ? このあと、主人公は彼女と出
会う。友情を深める。でも彼女は不治の病。死にそうになったときに、伝説を思い出して、そ
れで結局何とかなっちゃうんでしょ?
女1 はあ……まあ……。
男4 これからも作家として食べていきたいんならね、引出しが必要ですよ。先生。我々もですね。
売れない本は出版できないわけです。はっきり言って。
女1 はあ……まあ……。
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