折り紙気分
恐竜ヴァージョン
折り紙気分  恐竜ヴァージョン
                            作 田辺 剛

[登場人物]井上/中沢/吉田/松下

とあるフリースクールの一室。部屋は本や雑誌や新聞、書類などが散乱している。舞台には机と椅子がいくつかあり、机の上には折り紙とそれで作られた鶴や亀が置いてある。

生徒の井上が漫画を読んでいる。時々、一人で笑っている。そこへ中沢が入ってきて、井上の側に座った。

沈黙。

井上 (漫画を読んで)ふふっ……。
中沢 ……トイレ。
井上 え?
中沢 トイレ、また。
井上 トイレですか。
中沢 そう。
井上 トイレがどうかしたんですか。
中沢 流してない。
井上 え、僕じゃないですよ。
中沢 だって今さっき使ってたでしょ。
井上 使いますよ、生きてるんだから。ふふっ……。
中沢 そういうことじゃなくて。今さっき。
井上 今さっき? ああ……。
中沢 電気もつけっぱなし。
井上 それきっとあれですよ、二宮君ですよ。僕、電気は消しますもん、ちゃんと。あの人の方がひどいじゃないですか。流さないし、電気つけっぱなしだし、扉も開けっ放しで。だって扉とか全開ですよ、全開。そんな、トイレのショールームじゃないんだから、ふふっ……。
中沢 二宮君は朝からいないでしょ。
井上 ……。
中沢 確かにね、二宮君もあんまり良くないけど。
井上 そう、トイレットぺーバーもめちゃくちゃ使うでしょ、あの人。この前もね、僕一回トイレに入って、んでもうちょっとして行ったんですよ、もう一回。そしたらあの人その間に一回行っただけで全部使ってしまって、交換もしないんですよ。あ! ちょっとそう、僕そのこと言おうと思ってたんですよ。なにが迷惑ってこれ一番でしょ、トイレの紙。僕その時叫んじゃいましたもん、ウォーって。今さっきはあんなにあったのにーって。オーマイガーみたいな。ふふっ……。なんでそんなに使うんですか、あの人。
中沢 それは分からないけど。
井上 紙がなくなったら、最後の人がちゃんと交換すべきだと思うんですけど。
中沢 まあ、それは。
井上 一番良くないでしょ、みんなで生活してるのに。紙がないのはダメですよ、紙は。でしょ?
中沢 まあ。
井上 僕、そのこと前田先生に言おうと思って。あ、言ってこよう。(と立ち上がる)
中沢 今いないよ。
井上 あ、そうなんですか。
中沢 そう……まあ、紙のことはまたちゃんと先生といっしょに話さないといけないけど、それよりもね、水。流さんのはどうして?
井上 だから流してますって。
中沢 流してなかったよ。
井上 あれじゃないですか。……量が足りなかったかな、水の。僕いつも「小」の方で流すんで、「大」じゃなくて。なんでもかんでも「大」で流せばいいってもんじゃないでしょ。
中沢 そうだけど。
井上 ジャージャージャージャー。
中沢 もし足りなかったのなら、ちゃんと確かめて流さないとさ。流してないって思われたら嫌でしょ。
井上 水不足らしいですよ。
中沢 なにが?
井上 今年。雨少なかったでしょ。
中沢 ああ。
井上 ニュースで言ってました。大変みたいですよ。
中沢 そう?
井上 ダムとか干からびちゃってました。テレビで。
中沢 ふーん。
井上 ええ。

沈黙。

中沢 とりあえず水はちゃんと流して。迷惑かけるし、周りに。お互い気持ちよく過ごしたいじゃない?
井上 ……。
中沢 電気も。
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