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青天の霹靂

【登場人物】
藤田（サッカー日本代表監督）選手時代はフォワードとして活躍
古河（日本代表チームコーチ）選手時代はゴールキーパーとして活躍
田崎（日本サッカー協会広報）元女子サッカー選手
松下（スポーツ日報記者）中堅の曲者記者
三橋（日本サッカー協会会長）日本サッカー界の重鎮

　　　サッカーの試合を控えたある競技場。
　　　選手のロッカールームとは異なる、質素な日本代表監督の控え室。
　　　パイプ椅子と折りたたみ式の机が置かれている。
　　　机の上には見慣れないラベルのスポーツドリンクが何本か置かれている。
　　　フォーマル姿の藤田とジャージ姿の古河が入ってくる。
　　　藤田は携帯電話でインタビューに応じている様子。
　　　古河は持参した荷物からたくさんの資料を取り出している。

藤田　ええ……短時間ではありましたが、チームは十分な準備をすることができました。相手国の分析も万全です。……ええ…もちろん、今それをここで申し上げることはできませんが、まあ、試合の場で証明してみせますよ。……はい……ええ、いやいや、こちらこそお世話様でした。いい記事にしてください。……はい、では…。（携帯電話を切る）
古河　お疲れ様でした。
藤田　いやあ、さすがにここにきてメディアの取材が激しいなあ。
古河　来年にはワールドカップの地区予選が開幕しますから、注目されているんですよ。
藤田　（胃薬を口にしながら）采配より喋りの方が上達している気がするよ。
古河　あ。水、お持ちしましょうか？

　　　藤田、無言のまま「大丈夫」の合図をして、机に数本置かれていたスポーツドリンクを手に取り、手際よく飲む。

藤田　……まずい。
古河　良薬口に苦し、ですよ。
藤田　いや、胃薬じゃなくてこれ（ドリンク）だよ。どこの商品だ？
古河　（ドリンクを手にして）スポンサーの新商品みたいですね。
藤田　…ってことは、試合中に選手も飲むのか？
古河　ええ。ベンチ、ロッカールーム、ピッチ周り、ずらっと並んでいるはずです。
藤田　（もう一口飲み）うえ…。こんなまずいもの飲んだら調子が悪くなるんじゃないか？
古河　（ラベルを見て）でも水分の吸収力はすごいらしいですよ。
藤田　機能を追求するのも結構だけれど、人間が飲むんだから、味や香りも考えて欲しいよ。
古河　何も考えていないってことはないと思いますが…。
藤田　この前のやつはよかったな。海洋深層水だか何だかを使ったやつ。
古河　確か同じメーカーですよ。
藤田　本当か？大企業ってのはダメだね。生産ラインや研究チームがバラバラなんだろ？だからこんな奇想天外な商品が出てくるんだよ。
古河　ドリンクもサッカーも、チームのまとまりが肝心ってことですね。
藤田　きれいにまとめるねぇ。

　　　落ち着いた空気に、ついついもう一口ドリンクを飲んでしまう藤田。

藤田　……今からアクエリアスか何かに替えた方が絶対いいって。
古河　スポンサーからの提供品ですから、そうもいかないでしょう。ただでさえ、試合中は商品のラベルが見えるように取り扱ってくださいって釘を刺されているんですからね。
藤田　じゃあ中身だけ詰め替えさせるんだ。
古河　間に合いませんよ。
藤田　いや、みんなで手分けしてやれば間に合うんじゃないか？
古河　スポンサーにばれたら大変ですよ。
藤田　時間をかけずに一瞬で終わらせれば、ばれないだろ？
古河　そりゃまあ、そうですけれど…。どうやって？
藤田　会場にはいろんな人がいる。新聞記者、カメラマン…それから、スポンサーの役員にも手伝ってもらえば何とかなる。
古河　それじゃあ、バレバレじゃないですか。
藤田　し、しかしなあ……。
古河　監督。確かに監督の口には合わないかもしれませんが、試合中に飲むのは選手です。ですから大丈夫です。
藤田　……。
古河　そもそも、味には好みがありますからね…。

　　　手にしていたドリンクを試しに飲んでみる古河だが、途端に複雑な表情を浮かべる。

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