見る夢知らぬ夢
真ん中に布団が敷いてある。そこに女がひとり眠っている。
部屋の中には、床に這いつくばって黒い人々が身を隠している。
コンプレッサーの音、換気扇の音、電子レンジの回る音、洗濯機の回る音、そして、電話 の音。電話の呼ぶ音は、どこからもいくつもいくつも聞こえてくる。それでも、眠ってい る女は起きない。
その代わり起きたのは、隠れている黒い人々。ある人は笑いながら、ある人は喜びながら 、ある人は哀しみながら、ある人は怒りながら、黒い人々は起き上がる。電話の音はやがて音楽と入れ替わり、黒い人々はそれに合わせて踊り出す。
そしてまた、床に這いつくばる。
よしこ 眠れないのね
しょう 君も?
あいじ おまえもなのか
りか わたしもよ。
黒い人々が少し体を起こし語り合う。
あいじ 部屋が暗すぎるんだよ、
よしこ 真っ暗なほうが眠れるのよ
りか 少し寒いのよ
しょう 布団が重いって、減らしたからさ。
よしこ こんなに冷えるなんて思ってもみなかった。
りか うん
あいじ だから、長袖にしておけって言ったんだよ
よしこ 荷物になるじゃない
しょう 荷物ってなんのことさ。
りか うん
よしこ ただの言い訳よ
あいじ ふぅん
ほんの少しの間。
しょう ……嫌な夜だ
すると皆、窓を見る。真っ暗な夜だ。
りか 真っ暗な夜
よしこ 寒い夜
しょう 暗い夜
あいじ 眠れない夜
皆、息を吸ってまた、窓を見る。
しょう ……それにしても、嫌な夜だ
ため息。夜のため息が聞こえる。
ジムノペディみたいな静かな曲。雰囲気が明るく変わっていく。
あいじ 花だ。花が咲いてる。
ガタンゴトン……電車が走っている。
よしこ すごくきれい。広い花畑ね。
ガタンゴトン
りか 甘いにおいがするわ。
ガタンゴトン。女、布団に寝転がったまま、
女 ……まただわ。また知らないところに来てしまった。いつのまに、こんなところまで来たのかしら。私、いつのまに、出発したのかしら。
女、布団に寝転がったまま。
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