そこに埋まるものはたしか
そこに埋まるものはたしか 作 田辺剛

戦争が終わってそこに残ったのは焼けこげた瓦礫とほこりっぽい、焼けた土のにおいだけだった。遠くまで広がる焼け野原。もともとそこは静かな住宅街だったのだが、もはやそのことを明確に示すものはなくなっている。散乱する瓦礫と遠くに見える焼け残った森がせいぜい目印になるくらいだ。戦争が終わっても町の人は戻らなかった。政府はその町に敵が無数の地雷を埋めたと言い、人々が町へ戻ることを禁じたからだ。

その町の静けさは、無音という静けさとして戻ってきた。

広い焼け野原には地雷撤去作業員のキャンプが点在していて、そのうちの一つのキャンプが今回の舞台となる。

客席と舞台とのあいだに張ってある赤い線は登場人物の安全を守る最後の境界線だ。舞台にはパイプテントが立っている。テントの外には安っぽいテーブルと椅子がいくつか。テーブルの上には水のタンク。

暗くなった舞台に差し込んでくるのは月の光だ。その夜は厚い雲が時おり流れる空なので、月の光は雲が月の下を通るたびにゆらゆらと揺れている。

男 (男2) が紙にペンを走らせながら考えている。テントの奥には女 (女2) がいるが、外からは女の顔がよく見えない。女は男のことを見つめているようだ。

 プロローグ 「トランポリン的で満月チックな詩とはなにか」

男2 (走るペンが止まって) うーん・・・おい。
女2 なに?
男2 いんのか。
女2 いるわよ。
男2 もうちょっと待ってな。
女2 待ってるじゃない。
男2 ああ、せやな・・・「夜の闇が降ってくる あなたとわたしと そのあいだに」・・・「夜の闇が降ってくる あなたとわたしと そのあいだに」・・・「そのあいだに」、「そのあいだに」、「そのあいだに」・・・

月の光が大きくなる。

女2 きれいね。
男2 ・・・(書きながら) 「闇のなかへ消えて行くあなたの身体を」・・・
女2 満月?
男2 「細すぎる三日月は」・・・
女2 ねえ。
男2 なんや。
女2 ここから見てると、あれね。UFOでも降りて来そうな光よね。
男2 降りて来ません。

男は再び詩のことばを探しはじめる。

女2 きれいね。
男2 (ぶつぶつ言っていたが) よし、ちょっと聞いて。
女2 うん。
男2 「夜の闇が降ってくる あなたとわたしと そのあいだに 闇のなかへ消えて行く」・・・これ、だんだんとやな。 (書きながら) 「だんだんと」・・・「夜の闇が降ってくる あなたとわたしと そのあいだに だんだんと闇のなかへ消えて行くあなたの身体を」・・・「だんだんと」、「だんだんと」・・・「だんだんと 闇にさらわれるあなたの身体を」・・・よし・・・ (女2に) おい。
女2 なに?
男2 おお。
女2 だから、いるって。
男2 おお。
女2 信頼がないのね。
男2 そうやなくて。
女2 はいはい。
男2 ・・・続けんで。
女2 あなたが止めたのよ。
男2 自分・・・ (と言いかけたが、取り直して男は詩を朗読しようとする)
女2 さん、はい。
男2 ・・・。
女2 え? ああ。
男2 (読み出そうとする)
女2 どうぞ。
男2 ・・・。
女2 ちゃんといるわよ。聞いてるよ。
男2 そんなんじゃなくて・・・。
女2 うん。
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