無人島



  「無人島」   作:大沢ケイト


   登場人物
    男………遭難者。
    天使……神の使い。男でも女でもない。大きな羽をしょっている。


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   ここは大陸から遠く離れ、周囲を海に囲まれた無人島。
   静かに波が打ち寄せる音、遠くにカモメの声が聞こえる。
   椰子の木陰に男が一人うずくまっている。
   乗っていた船が難破してここに漂着したらしい。
   服はボロボロでやせ細り、げっそりしている。
   ヒゲや髪も伸び放題だ。
   男は独り言を言っている。


男   何日目だ?


     間。


男   ……だから何日目だって聞いてるんだよ。決まってるじゃないか。
    俺たちの乗った船が難破して、板切れにしがみついてここに漂着したのはいいものの、
    かれこれ……ひぃふぅ……だめだ、腹が減って数えられん。


    間。


男   ああ、またカモメがやってこないかなあ。カモメ。
    うまかったなあ。アホな鳥でさ、俺たちの目の前でじーっとしてやがって。
    捕まえられるわけないって思ったのに手を伸ばしたらあっさりと…。
    うまかったなあ。羽むしってさ、腹あけてさ、腹の中に入ってたイカ食ってさ、
    それから肉を生で、こうがぶりと…。
    ここだけの話、俺、肉を生で食ったの初めてなんだよ。
    鳥だけじゃない、牛も馬も豚も、生じゃ食ったことない。初めてさ。


    間。


男   …何か聞こえなかったか? 話し声が。幻聴じゃない。ほら、すぐ耳元で。


    間。


男   いや、空耳だな。昔、本で読んだ。断食の話で、ずっと食べずにいるとはじめは飢餓感に
    苦しむが、やがて五感が研ぎ澄まされて、ずっと向こうの音まではっきりと聞き取れるように
    なるって。本当だな。鳴門の渦潮の音が聞こえる。……んなわけないか。
    鳴門……ラーメン食いてえ。

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