地上に降りた最後の天使
地上に降りた最後の天使《登場人物》
天野香澄(かすみ)/天使1
井上朱里(あかり)/天使2
大島由美/天使3
神崎大地/大天使ミカエル

Stage1
 降りたままの幕の裏側で声がする。 
 各スタッフが開演直前の準備で走り回っている気配。
 本番前の緊張と熱気が、幕のこちらがわの客席まで伝わってくる。
 そして、開演を告げるアナウンス。
 「只今より、演劇部公演『地上に降りた最後の天使』を上演致します。」
 そして、幕が開く。が、何も起こらない空間。

 薄暗く、埃っぽい部屋。
 もう長いこと使われていないらしい。
 部屋のあちこちに芝居の大道具・小道具と思しき物が埃を被り、あるものは壊れたままで放置されている。
 一人の女(=天野香澄)が入ってくる。
 懐かしそうにあたりを見回し、思い切り部屋の空気を吸い込む。
 そして、当然のようにむせる。

かすみ 相変わらずきったねえなあ。掃除ってものをしてないのかね。ま、私達がいた時も、まともに掃除なんかやったことをかったけどな。それに、もうなくなっちゃうんだもんな、この部屋。

 かすみ、もう一度部屋の中をぐるりと見回す。
 ふと、床の上に落ちているかすみ草の花に目を止める。

かすみ この花は…。

 突然、音楽。
 舞台に光が満ちる。
 そして、声が聞こえてくる。

天使が子守唄を口ずさむ夜には
眠っていた夢のかけらが目を覚ます
あの日世界が待っていたのは
神の予言でもメシアの手でもなく
たったひとつの言葉だった

あの日私を包んだ笑顔を
時は淋しさという外套に変えていく
あの日私が流した涙を
時は宝物の箱を開ける鍵に変えていく
天使が子守唄を口ずさむ夜には
世界の底で眠っていた夢のかけらが目を覚ます

 ジャージ姿の演劇部員達(井上朱里、神崎大地、大島由美)が大道具の陰から登場して、以上の言葉を語る。
 呆然と見つめるかすみ。
 突然、照明戻る。

あかり どうでしたか、かすみ先輩。
かすみ えっ?
あかり 今の詩ですよ。
大地 かすみ先輩が作ったんでしよ?
あかり 台本に入れてみたんですよ。どうでしたか?
かすみ えっ?ああ、そうね、自分で言うのも何だけど、いいアクセントになるんじゃないの。
あかり よかった。これ、私のアイデアなんですよ。
かすみ それにしても、よくこんなの見つけたわね。
ユミ 私です。
かすみ ユミが?
ユミ 先輩が一年の頃の部誌を見てたら…
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