くすり
「くすり」
作 樋栄 邦直
ーーーー夜,わずかな明かりの中
ーーーー荒涼とした瓦礫の片隅
ーーーー赤ん坊を抱く母親。
姉 高熱が続いてもう5日・・・
食欲はなく下痢と嘔吐を繰り返している。
もう吐く物もないのだろう,
おっぱいを吸う力も残っていない。
替われるものなら替わってあげたい。
ーーーー妹 下手より登場
妹 姉さん,少し休んだら
姉 こんな時に・・眠れるわけないでしょ
姉 ねえ,なんとかならないの?
妹 私は医者じゃない。
姉 医者なんか求めていない・・・。今欲しいのはこの子のこの熱と痛みをとる
薬がほしいだけ。あんた,薬剤師なんでしょ薬草とか何とかならないの
妹 そんなの,むりよ。教科書で習った薬草が都合良く生えているわけないでしょ。
姉 このまま見殺しにするの
妹 ・・・・・(今の私には何もできない)
ーーーー 暗転
ーーーー妹 駆け込んで来る
妹 姉さん!姉さん!これを……
姉 何,これ? もしかして,薬が見つかったの?
妹 いいから早く飲ませて
(子供に飲ませる)
姉 よかった。これでこの子は助かる・・・
妹 安心して,姉さん
ーーーー姉の表情が和らぐ。子供が安心して落ち着く。
姉 (妹を見て)ありがとう・・・
ーーーー子供を抱きすくめる。
ーーーーゆっくりと暗くなる。
ーーーー妹に明かり
妹 ごめんね,姉さん。私,姉さんをだましてる。あれは薬なんかじゃない。ただのお砂糖なの。「プラセボ」,そう偽りの薬。病は気からと言うでしょ。それと同じ事。薬も,効くと思って飲めば効くの。本当は薬の効果なんか無いけれど,薬が手に入ったと思って姉さんは安心した。その姉さんを見て,子供も安心する。それで病気が良くなる。
妹 ・・そうですよね,教授。あの時,教授は教えてくれましたよね。薬そのものよりも,それを扱う人の心が一番大切なんだと。プラセボと言う言葉の意味は・・「喜ばせる」
ーーーー終ーーーー
「急逝した恩師に捧ぐ
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