Noisy Gallery
絵は口ほどに

《登場人物》
雨宮有紀
相良夏美
保志泉

街中にある小さな画廊。
壁や展示用パネルには、にはいくつかの絵が飾られている。
ちょっとしたグループ展らしく、画風も描かれているものも様々だ。
人はいない。
そこに、一人の女(雨宮有紀)が入ってくる。
有紀の携帯が鳴る。有紀、電話に出る。


有紀 あ、早苗?ごめん、さっき切れちゃって。うん、有り難う。そうなの、ただの勘違いだったのよ。笑っちゃうでしょ。でもね、あれは医者もよくないんだよ。思わせぶりな言い方するから。もうてっきり駄目かと。…何、「殺しても死なない」って、それどういうことかな。私はめちゃめちゃか弱いよ。もう病気が服着て歩いてるみたいな。うん、でも取り敢えず何でもなかったみたいだから。ごめんね、心配かけて。え?今?画廊。そう、例の。…違うのよ。結局ね、描けなかったの。そう、一枚も。確かにね、自分の描いた絵で展覧会を開くのが夢だったから、病気をきっかけに一念発起したのよ。でも、病気じゃないって分かった途端に急に気が抜けちゃってさ。一念がどっかにいっちゃったの。やっぱ駄目ね。まあ、絵なんてそう簡単に描けるもんじゃないよね。技術もそうだし、自分の中に何かないとね。私ほら、こんなだし。って納得するなよ。「そんなことないよ」って否定するところじゃん。…それがさ、夏美だけ知らないんだよ。今朝急にメール来て、「○時に行くから画廊で待ってろ」って。事情をメールしたけどレスもないし、電話も全然通じないからさ、しょうがなくて来たんだよ。…え、それ、早苗の所に行ったの?ミスった!…うん、分かった。頑張る。じゃ、またメールするね。

有紀、電話を切って、ため息をつく。

有紀 まいったな。

また有紀の携帯が鳴る。有紀、液晶画面を見る。

有紀 来たよ。

有紀、電話に出る。

有紀 夏美?今どこ?え、もう下?分かった。今行く。

有紀、慌てて出て行く。
入れ違いに、別の女(保志泉)が少し遠慮がちに入ってくる。
中を見回し、パネルの前に行き、それぞれの絵を眺める。
ひとつの絵の前で足を止める。他の絵よりもじっくりと、その絵を見る。
そこに、また別の女(相良夏美)が息を切らして入ってくる。
きょろきょろと辺りを見回し、客席を見付けて近付く。
そして、客の一人に話しかける。

夏美 すみません。ここ、○○(画廊の名前)ですよね?あの、何やってらっしゃるんですか?何か始まるんですか?あ、もしかして、もう始まってます?これ、アート?これ自体がアート?あなた自体アート?(別の客に)すみません、お取り込み中には見えないんですが、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど。いえ、難しいことじゃないんです。ただ、私と一緒にいていただければそれでいいんですけど。…何か困ってらっし
ゃいますね。私のこと嫌いですか?いいんですよ、そうならそうって仰っていただいて。私全然気にしませんから。ああ、そうですか、分かりました。あなたもアートなんですね。もう結構です。

夏美、勝手に腹を立てて客席を離れ、画廊を見渡す。
ふと、泉が目に入る。
夏美、泉に近付く。

夏美 あの、失礼ですが、あなたアートですか?
泉 は?
夏美 違いますよね。
泉 ええ、まあ。
夏美 そうですよね。そうは見えませんでしたから。
泉 はあ。
夏美 よかったですよ、アートじゃなくて。
泉 そんなもんですか。
夏美 有紀とはお知り合いなんですか?
泉 有紀さんって?
夏美 違うんですね?じゃあ、ちょっとお願いしたいことがあるんですが。急いでませんよね。
泉 ええ、特別には。
夏美 よかった。じゃあ、少しだけ私と付き合っていただけますか?
泉 えっ?
夏美 友達を助けたいんですよ。
泉 お友達?
夏美 ええ。そんなに難しいことじゃないんです。ただ、私と一緒にその友達と会ってもらえれば。
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