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キツネの婿取り

＜登場人物紹介＞

　今泉　慎　　……大学生。キツネの彼氏。誠実でまじめ。肝心なところでは鈍い。
　陽海　キツネ……狐の妖怪。人間のふりをして大学に通い、慎と付き合っている。意外とおっちょこちょい。
　陽海　賢治　……犬の妖怪。キツネの父。普段は警官。頑固。娘や息子の人間界とのかかわりに対しては快く思っていない。
　陽海　峰子　……猫の妖怪。キツネの母。のほほんとしており優しい性格。うまく夫をコントロールしている。
　陽海　一郎　……狼の妖怪。キツネの弟。高校でサッカーをやっている。ベッカムのファン。
　間野　タヌ吉……キツネの幼なじみ。父・賢治と仲が良い。キツネと相思相愛と思い込んでいる。

「キツネの婿取り」

　　　　　　　陽海家のリビング。
　　　　　　　母・峰子があちこちから荷物を散らかして（？）いる。
　　　　　　　やがて「ただいま」と声がして、娘・キツネが帰宅してくる。少し急いでいるらしい。
　　　　　　　キツネ、部屋の散らかり具合に驚く。

キツネ　　な、なにこれ？ちょっとおかーさん！
峰　子　　なーに、キツネちゃん？
キツネ　　今日は慎が遊びに来るから片付けておいてって言ったでしょ！
峰　子　　わかってるわよ〜。
キツネ　　じゃあ、なんで散らかしてんのよ？
峰　子　　やーねー。散らかしてるんじゃないわよ。片付けてるのよ。そしたらあれもこれも気になっちゃって…気が付いたらこんな感じ。
キツネ　　結果的に散らかしてるじゃないの！
峰　子　　あら。そうねえ。どうしましょう。
キツネ　　ん、も〜う！時間ないのよ！

　　　　　　　その辺の物をできる限りかかえて隣の部屋に向かうキツネ。
　　　　　　　峰子は残り物の片づけを続けるが、落ちていたボールに興味を引かれ、猫のようにじゃれ始める。
　　　　　　　そうこうしているうちに警官の制服を着た父・賢治が帰ってくる。

賢　治　　今帰ったぞ。
峰　子　　あら。お帰りなさい、あなた。お仕事お疲れ様でした。
賢　治　　いや〜、忘年会シーズンだけに飲酒運転の取締りに忙しくてな…。

　　　　　　　愚痴をこぼしながら制服を脱いでラフな格好になってゆく賢治。
　　　　　　　よく見るとズボンの下、ももひきの隙間から犬の尻尾が見える。

賢　治　　（犬のように鼻をクンクン）ん？おい、峰子。もうキツネが帰っているのか？
峰　子　　ええ。少し前に。
賢　治　　夜遊び娘が、珍しいな。

　　　　　　　マイホームですっかりくつろぐ親父ルックの賢治。
　　　　　　　そこへキツネが戻ってくる。父親の他人には見せられないような格好に驚愕する。

キツネ　　ちょっと、おとーさん！なんて格好してるのよ！
賢　治　　な、なんだ？
キツネ　　あーもう！忘れてるのね、おとーさん！
賢　治　　忘れてる…？（キツネの姿をじっと見て思い出す）あぁ！
キツネ　　思い出した？わかったら早く服を……。
賢　治　　駄目だ！認めん！
キツネ　　おとーさん！
峰　子　　そう言わずに会ってみたらどうですか？
賢　治　　い〜や、わしは会わんぞ！
キツネ　　なんで駄目なのよ？
賢　治　　なんでって、お前。その男は「人間」なんだろ？

　　　　　　　賢治はぶっきらぼうに答えながら峰子に渡された服に着替えている。

キツネ　　そう、人間よ。だから、彼にあたしたちが妖怪だって知られたらおしまいないの。今日一日、人間らしく振る舞ってね。わかった？お父さん。

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