メゾフォルテ〜或るピアノの物語〜
 
メゾフォルテ ―或るピアノの物語―
                                      作:瀧澤豚琴
   登場人物
       Y子     ――  リ リ ー     ――   小百合先生
       Aちゃん   ――  モ コ       ――   本田 ともゑ
       C 作    ――  ケン・ジャクソン  ――   山崎千太郎
       O 君    ――  ジ ュ ン      ――   塚口 善三
       婆ちゃん   ――  ヨーコさん      ――   松本 イ ク

 
  第 一 景    ―――― 二〇〇五年  長野と群馬の県境近く、山深い場所 ―――――

  別荘の内部。舞台中央近くにピアノが置いてあり、“C作”がそれを弾いている。傍らで“婆ちゃん”がそれを聴いているが、 
  他の皆からは、死角になっているらしい。前方では、”Y子“、”Aちゃん“、”O君“がバーベキューコンロを囲み、にぎやかに
  食事の支度をしている。
  やがて、一曲終わり、皆拍手。

  A    へ〜、ワリとやるじゃん。習ってたの?
  C    いや、独学。俺、あまり、外出ないから・・・・・・
  A    (ピアノのそばで古い楽譜を見つける。)ワ〜、見て見て、これ。すっごい古そう!
  O    (受け取って)ショパンですね。・・・・・昭和十九年発行・・・・レアだ。
  Y    あ、O君、その肉もう焦げそう!
  O    え? あ、ご、ごめんなさい。
  A    そろそろいいんじゃない?
  Y    そうね。よ〜し、乾杯と行きますか! みんな飲物持って。
  A    あれ、O君、ジュースなの? それじゃ酔えないよ。
  O    あ、僕、駄目なんです、アルコール。飲むと、痒くなっちゃうんです。
  A    え? 痒くって・・・・どこが?
  O    そ、そりゃ、あちこち・・・・
  Y    ちょっとAちゃん! からかわないの! さ、やろ。C作、準備出来た?
  C    おい、そのC作って・・・・
  A    いいじゃん。ぴったりだと思うけど。
  C    何でだよ、俺のどこが・・・・・
  Y    いいから、ホラ!(と乾杯を促すが)あれ? お婆ちゃんがいない!
  婆    ・・・・ここにいるよ。(と、Oのすぐ後ろに進み出る。)
  O    ヒーッ! ああ、びっくりした。し、心臓、口から出そう。
  A    驚きすぎ。
  Y    お婆ちゃんも、こっち来て一緒に食べよう?
  婆    (コンロの上を一瞥して)あたしに噛めそうなものぁ、なさそうだからね。
  A    ホラ、こっちのカボチャとかお芋とかなら大丈夫じゃない?
  Y    ちゃんとハンペンとかも用意してあるからさ、そんな拗ねてないで、乾杯しよう?
  婆    別に拗ねちゃいませんよ。
  Y    は〜い、じゃいい? 乾杯ね〜、みんな持った? じゃ、カンパ〜イ!
 (Aと婆のみ) カンパ〜イ!
 
  Y    ちょっと、男子、テンション低いよ〜。はい、もう一回。カンパ・・・・・
  C    ちょっと待った。乾杯って、何に乾杯するんだ?
  O    そ、それ、結構重要っすよね。
  A    なんだっていいじゃん、そんなの。何にしたって、どうせ今更なんだし・・・・・
  Y    そ、何でもいいの。今を楽しまなくちゃ。
  C    あんたはそれでいいかもしれねぇけど・・・・・・
  O    あの、こんなのどうかな。「僕たちの、短い人生に」
  婆    あたしゃ、これでも七三年ばかりこの世にいるんだけどね。・・・・・ま、短いか。
  A    いや、長い。じゅ〜ぶん、長いから。
  O    じゃ、「来るべき来世に!」
  C    お、それ、いい。
  A    やあねぇ、もう。
  Y    はい、それじゃ、いい? 「来るべき来世に!」 カンパ〜イ!
  皆    (勢いにつられて)カンパ〜イ!
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