Stairway to Heaven
あの世へ帰りたい
登場人物





  村上真司(SKY)
  岸谷大(ユッコ)
  橘知世(とも)
  平塚理子(林檎)
  深町彩花(トゲピー)
  草川幸恵(屍羅逝)
  飯島直美
  息吹浩明

PROLOGUE

     暗闇に携帯電話の呼び出し音が響く。
     続いて、何人かの声が聞こえてくる。

女1(声) もしもし、私。聞いてる?今ね、薬飲んだところ。そう、コーヒーと一緒に。何って、うん、まだ普通だよ。それでさ、最後にあなたの声をどうしても聞いておきたいなって思ったの。未練かな。でも、もうここには戻ってこないつもりだから。私に会いたい?ねえ、答えてよ。
男1(声) 俺の言葉は、誰にも分からない。何故なら、俺自身の言葉でしかないからだ。ただ、この空、頭上に広がるどこまでも青い空だけが、俺の言葉を受け止めてくれる。俺には分かる。いつか自分が、この空に帰っていくことが。だから俺の言葉は、誰にも分からない。
女2(声) お忙しいところ恐縮です。できれば教えていただきたいのですが、今手元に「レンドルミン」「テトラミド」「ベンザリン」「セディール」があります。この中で、一番少ない量で死ねるのはどれですか。また、それはどのくらいの量なのでしょうか。実は私、少し急いでいます。よろしくお願いします。
男2(声) 初めまして。ここに書き込みするのは初めてだけど、みなさん結構いろいろやっていらっしゃるんですね。そういう私もいろいろ試してみました。手首を切ったこともあるし、勿論薬もやりました。ガスもやってみました。でも、どうしてもだめなんです。やっぱり、どこかに躊躇いがあるんでしょうか。みなさんはどうですか?
女3(声) 今まで本当に有り難う。親友のあなたにだけは、私のことを分かってもらいたくてこの手紙を書きました。私がこの世からいなくなったら、どうかあの薔薇だけは、私の身代わりだと思って大切に育てて下さい。うちでは誰も面倒は見ないと思うから。こうするより仕方がなかったの。他の誰も悲しんでくれなくても、せめてあなただけはは私のために悲しんで下さい。これが最後のお願いです。
女4(声) 日常は退屈だと気付いてしまったあなたへ。あなただけの物語を求めて裏切られ、帰り道をなくしてしまったあなたへ。生きることも、死ぬことも、何もかもがもうどうでもいいと思えるあなたへ。早くこの世から消えてしまいたい、「無」に帰りたいけれど、一人では怖いあなたへ。この私も同じ気持ちです。

     暗闇の中に、客席に背を向けて立つ一人の女(女1=橘知世、ハンドルネーム・とも)のシルエットが徐々に浮かび上がる。

知世 森へ。約束のあの森へ。日常の生活から離れた、あの森へ。
女4 もし私と考え方や希望する手段が合うのなら、一緒にあちら側へ逝きませんか?
女3(声) 初めまして。
男1(声) 初めまして。
知世 自分を捨て、この世を捨てられる、あの森へ。
女4(声) 私自身とは合わなくても、ここ「電脳樹海倶楽部」であなたにぴったりのお相手を見つけることができます。秘密は厳守します。多くの方のご登録をお待ちしています。
女2(声) 実は私、行きたかったんです。
男2(声) 私も、ずっとあそこに行きたかった。
女3(声) じゃあ、あの森で会いましょう。
男1(声) まだ行ったことはないけれど、何だか妙に懐かしい、あの森で。
女2(声) 彼岸へと真っ直ぐに続く道が見える、あの森で。
男2(声) 人間が捨てた苦しみや悲しみを養分にして広がり続ける、あの森で。
女4(声) 誰にも分かってもらえないあなたを優しく受け入れてくれる、あの森で。
知世 私は帰る。親や友達や世間が着せた偽りの私を脱ぎ捨て、あの人から選ばれなかった憎むべき私を忘れるために。そこで私は、全てを終わらせよう。この世とあの世の境目に紺碧の海のように横たわる、
全員 約束のあの森へ。

     音楽。
     知世、ゆっくりと客席の方に向き直る。
     眩しい光の中、その表情ははっきりとは見えないが、微かに微笑んでいるようでもある。
     知世、ゆっくりと前に向かって歩き始める
     そのまま暗転。

SCENE1

     鳥のさえずりや、梢を吹き渡る風の音が聞こえてくる。
     舞台明るくなる。
     そこは約束の森、すなわち青木ヶ原の樹海の中。
     一人の男(=村上真司、ハンドルネーム・SKY)が来る。
     持っていたバッグの中から地図を取り出し、場所を確認する。
     そして、辺りを見回す。

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