雪人魚(時短)
雪 人 魚
登場人物
春未
内海 明
船越 美雪
渋谷 淳一
滝口 健司
北の海
中原 中也
海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。
曇った北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪ってゐるのです。
いつはてるとも知れない呪。
海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。
第一章
春先の海辺の丘の上。
まばらな人影の間で波の音が揺れている。
そんな海を一望できる丘の上には、祠のようなものが建てられている。
そのそばに一組のカップル。
海を、眺めている。
美雪 「風、冷たいね」
明 「まだ四月だもんな」
美雪 「よくまあ、海に行こうなんて言えたわよね」
明 「おまえと来たこと無かったからさ」
美雪 「で、どこに人魚がいるのよ」
明 「あそこに島が見えるだろ」
美雪 「あの船がいるとこの右側のやつ」
明 「そう、あの無人島にいるらしい」
美雪 「…。本当にいるの」
明 「おまえだってあの雑誌読んだだろ。『月の光に照らされて、岩に腰掛けている人魚発見。彼女はこちらに気がつくと音も立てずに海の中に消えていった』ロマンチックじゃないか」
美雪 「見つけてどうするのよ」
明 「ノーノー。見つけることがじゃない。二人で探す、これが大切なんだ」
美雪 「…」
明 「卒業間近のこの時期に、これから社会に出てゆく前に、少年のような気持ちに帰って無人島を探検する。道もわからない林の中を、波の音を聞きながら進む。人魚の島で二人きり。いい旅行になりそうじゃん」
美雪 「さよなら旅行だもんね」
明 「…」
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