午後二時
『午後二時』

 【登場人物】
   父・・・暑さにやられたエイジさん、48歳。
   長男・・しっかりもののケンジくん、24歳。
   次男・・のんびり天然なセイジくん、18歳。


        ───セミの鳴き声とお経のハーモニーが響き渡る炎天下の午後二時。
        そこは告別式の真最中。男が三人並び、ハンカチで“汗”をぬぐっている。

長男  ─────父さん、そろそろだよ。                 
父   あぁ、言われなくてもわかってるさ。
次男  ──短めでお願いね。
父   あのな、オレは空気読めない校長じゃないんだよ。だいたい長く話してればなぁ、みんな母さ
    んの道連れだよ!
長男  ちょっと、大きな声出さないで。
父   あぁ?
長男  わかった、わかったから、落ち着いて。
父   それよりもな、ケンジ、
長男  なに?
父   おまえにやらせてやるよ、喪主の挨拶。
長男  いや、それはちゃんと喪主がやんなきゃ。
父   ──おいセイジ。
次男  なに?
父   代打よろしく。(とカンペを渡す)
次男  そんなのいらねぇ。父ちゃん、僕に任せといて。
父   落ち着いていけよ。(座ろうとする)
長男  だから、父さんがやるんだよ。(と父を立たせ、次男を引っ込ませる)
父   なぁケンジ。
長男  何?
父   母さんの棺桶、もうひとりくらい入れんのかな?
次男  父ちゃん愛だねー。
父   最後の愛のちぎりを交わしてやろうじゃないか。
次男  それは引くなー。
長男  ふざけないでよ。そんなこと言って、悪いと思わないの!?
父   あぁ、こんな真夏の最中に──
父&次 母さんが悪いと思ってるよ!
長男  母さんに、だよ!

        ────お経が終わる。                  

父&次 ん?坊主が倒れた!?
長男  お経が終わったんだよ。ほら、父さん、出番だよ。
父   あれ?もうオヨビがきたか?
長男  違う。喪主の挨拶だってば。
父   うむ。そうか。(一歩前に出る)えー、皆さん。あれですね、えぇ、余りね、長いのもね、へへへ、
    ですよね、はい、出棺です。
長男  ちょっと、もう少し続けた方がいいよ。母さん悲しむって。
父   でもな、早くしないと母さん腐り始めちまうぞ。
次男  あ、サランラップしとけばよかったかな。
父   それもっと早く言えよー。
長男  意味ない意味ない。さ、ちゃんとやって。
父   えー、妻と私が出会いましたのは、かれこれ30年前、いや32年、うぅん33年。そう、あの頃は
    妻も若かった。ハタチでしたね、ハタチ。いやー、白い太ももがむっちむちしていて、それがもう
    私の趣味にドストライクで
次男  やられちゃった?
父   やられちゃった!
長男  父さん、考えてきたやつでいいから、余分なこと言わないで。
父   でもこれつまんないぞ。
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