量子もつれの恋人たち
量子もつれの恋人たち
著 KESHI
登場人物
• 天野光(あまの ひかる) 18歳・高校3年生。物理部部長。天才肌だが不器用。
• 月島理央(つきしま りお) 18歳・光の幼馴染。化学部部長。明るく社交的。
• 星野蒼(ほしの あおい) 17歳・高校2年生。物理部副部長。冷静沈着。
• 桜庭さくら(さくらば さくら) 17歳・生物部部長。天然でマイペース。
• 海老原陸(えびはら りく) 18歳・数学オリンピック日本代表候補。クールで理論派。
• 山下優(やました ゆう) 17歳・工学部。ロボット製作が得意。ムードメーカー。
• 白石教授(しらいし きょうじゅ) 60代・大学教授。かつての天才物理学者。
• 天野春子(あまの はるこ) 45歳・光の母。元研究者。
第一幕 第一場
物理準備室。放課後。机の上には実験器具や参考書が散乱している。光が黒板に複雑な数式を書いている。
光: (独り言のように)おかしい…計算は合ってるはずなのに、実験結果と一致しない。どこで間違えたんだ…
ドアが開き、理央が入ってくる。手には二つのペットボトルを持っている。
理央: 光、まだやってたの? もう7時だよ。
光: (振り向かずに)理央か。悪い、今手が離せない。
理央: (ペットボトルを机に置いて)はいはい。スポーツドリンク置いとくね。糖分補給しないと脳が働かないよ。
光: ありがとう。(ようやく振り向く)お前こそ、化学部の実験は終わったのか?
理央: とっくに。今日は銅イオンの定性分析だったんだけど、一年生たちが思いのほか優秀でさ。私の出番なかったよ。
光: そうか。(また黒板に向き直る)
理央: (黒板を見て)ねえ、これって量子もつれの実験?
光: よく分かったな。
理央: 光が最近ずっと言ってたじゃん。「量子もつれを使った通信システムの理論を証明したい」って。
光: ああ。二つの粒子が離れていても、一方の状態を観測すると瞬時にもう一方の状態が決まる…量子力学で最も不思議な現象だ。アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼んだ。
理央: でも、それがどうして通信に?
光: (目を輝かせて)考えてみろ。もし量子もつれを完全にコントロールできたら、光速を超えた通信が可能になるかもしれない。宇宙の果てにいる誰かと、瞬時に会話できる。
理央: すごいね…でも。(光に近づく)光、お前さ、最近寝てる?
光: 寝てるよ。4時間は。
理央: 少なすぎ! そんなんじゃ体壊すよ。
光: 大丈夫だ。それより、来月の科学コンテスト、俺はこのテーマで出場する。
理央: え? あの全国大会の?
光: ああ。優勝すれば、白石教授の研究室に推薦してもらえる。俺の夢に一歩近づける。
理央: 白石教授って、あの量子力学の権威の?
光: そうだ。俺、どうしてもあの先生の下で研究がしたいんだ。
理央: (複雑な表情で)そっか…頑張ってね。
沈黙。
光: 理央?
理央: 何?
光: お前、化学の道に進むんだよな。
理央: うん。有機化学を専攻したい。新しい薬を作りたいんだ。
光: そっか。(少し寂しそうに)お前は化学、俺は物理か。
理央: でも、科学は繋がってるよ。化学も物理も生物も、全部。
光: それもそうだな。
ドアが開き、蒼が入ってくる。
蒼: 先輩、まだいたんですか。
光: 蒼か。どうした?
蒼: 明日の実験の準備、確認に来ました。あと…(理央を見て)月島先輩もいらしたんですね。
理央: こんばんは、星野さん。
蒼: (冷たく)こんばんは。
理央: (気まずそうに)えっと、私、そろそろ帰るね。光、無理しないでよ。
光: ああ。気をつけて帰れよ。
理央が出ていく。
蒼: (黒板を見て)進んでないんですね。
光: ああ…どうしても理論と実験が一致しない。
蒼: 先輩、一度原点に戻りませんか? 数式を追うより、現象そのものを観察する。
光: 現象を観察…
蒼: 量子もつれは観測した瞬間に状態が確定する。つまり、観測という行為そのものが系に影響を与えている。その影響を定量化できていないんじゃないですか?
光: (はっとして)そうか…観測問題か! 蒼、お前天才だな。
蒼: (少し赤くなって)いえ、先輩の理論があったからこそです。
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