言葉の棚卸し
コント
『言葉の棚卸し』 作:第三字宙 

登場人物
ヨリエ(母・常識人だがたまに暴走)
アヤ(娘・感情派)
ケンジ(叔父・謎のポジティブ)

リビング。テーブルを囲んで3人が座っている。

ケンジ「えー、毎年恒例の言葉の棚卸しです。今年使わなくなった言葉を断捨離していきましょう。じゃあ、アヤから」
アヤ「はーい。私は…"やばい"を提出します!」
ヨリエ「あら、やばいって、そんなに使ってた?」
アヤ「なんでも"やばい"で済ませてる気がして。もっとちゃんとした言葉で表現したいなって」
ケンジ「いい心がけだ!じゃあ、どんな時に使ってるか、試してみようか」
アヤ「えーと…この間見た動画、やばかった」
ヨリエ「どうヤバイの?」
アヤ「すごく、面白かった」
ケンジ「ほら、言えるじゃないか」
アヤ「うん、これは言える…じゃあ次、昨日食べたラーメン、やばかった」
ヨリエ「美味しかったの?」
アヤ「えーと…味が濃くて、量も多くて、でも美味しくて、お腹いっぱいで苦しいけど幸せで…」
ケンジ「長いな」
アヤ「でしょ!?全部言ってたら感動が冷めちゃう」
ヨリエ「じゃあ、"複雑に美味しい"とか?」
アヤ「それ、やばいよりやばくない?評論家みたいで…」
ケンジ「確かに違和感あるな」
アヤ「あと、明日大学のサークルでOB来るからヤバイ」
ヨリエ「楽しみなの?嫌なの?」
アヤ「両方!楽しみだけど緊張するし、話したいけど気まずいし、嬉しいけどプレッシャーだし…」
ケンジ「それも全部"やばい"に入ってるのか」
アヤ「うん…だから、うまく言えないの。わかるでしょ!?」
ヨリエ「わかるけど…」
アヤ「"やばい"って、いろんな感情が混ざってる時の、あの感じなの!」
ケンジ「あの感じって、どの感じだよ」
アヤ「だから!言葉にできない、あの感じ!」
ヨリエ・ケンジ「…わからん」
アヤ「うー…捨てたくない…」
ヨリエ「でも、今日捨てるって決めたんでしょう?」
アヤ「わかった…」

アヤがカードに「やばい」と書いて、箱に入れる。が、すぐに手を伸ばす。

ヨリエ「こら、もう入れたでしょ」
アヤ「でも…さみしい…」
ケンジ「さみしいって…(笑)じゃあ、次は姉さん」
ヨリエ「私は"ご苦労さま"を提出します」
アヤ「え、なんで?」
ヨリエ「最近、"お疲れさま"の方がしっくりくるのよ。"ご苦労さま"って言うと、あれ、上から目線って思われないかな、って気になっちゃって」
ケンジ「気を使いすぎじゃない?」
ヨリエ「でも、そう思われたら嫌じゃない。言葉って、重たいのよ。たとえば、"ありがとう"だって、言わないと冷たい人って思われる気がするし…」
アヤ「あー、わかる」
ヨリエ「だから、慎重にならないと」

ヨリエがカードに書いて箱に入れる。

ケンジ「じゃあ、最後は俺。"すみません"を提出します」
アヤ「え!?本気で捨てるの?」
ケンジ「謝ることばっかりの人生もどうかと思って。これからは"ありがとう"で乗り切ってみる」
ヨリエ「全部ありがとうって…」
ケンジ「大丈夫。感謝の気持ちが伝わって、人間関係が良くなる」
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