名もなき猫は名を呼ばれず
名もなき猫は名を呼ばれず
〈登場人物〉
猫
盛岡のどか(もりおかのどか)
坂本七希(さかもとなつき)
母さん
―猫がピンスポットライトに当てられているー
猫:(スマートに)吾輩は猫である。名前はまだない。
猫:(ウキウキしながら)なーんて、カッコつけちゃったりしちゃってねぇ!どこぞの文豪が黙っていないようなセリフ、一回は言ってみたかったんだよなー!猫界の、あ・こ・が・れ?的な!
(落ち着きながら)…あ、えっと〜…。ま、まあ!猫です。名前も何も無い、ニンゲン達が俗に言う「野良猫」ってやつ。最近やけに寒くなってきたから、適当にここに住み着いてるってわけ。
(テンションが上がりながら)雨風も寒さもしのげるし、ニンゲンもほとんど来ない!こんな最高な物件、他にあるもんか!
〈舞台はお悩み相談部の部室。机が舞台中央の前側に2つ、奥側に机が3つほど横に並んでおり、棚が複数ある。椅子は2脚あり、片方は前側の机付近、もう一脚は上手の棚付近にある。下手側には何個か積まれた段ボールがある〉
―のどかが入ってくるー
のどか:(元気よく)よっし!今日も部活、頑張るぞー!!!(冷静になる)って言っても、お悩み相談部は私1人だけなんだよなー…。
猫:相変わらず元気だな…。
のどか:珍しくここに足を運んできてくれる人達の悩みは…(可愛らしく)『彼氏が出来なくて困っちゃ〜う!』だの(かっこよく)『俺の魅力にプリティーな女子達が魅了され過ぎて困ってるんだ!』だの、しょーもない悩みばっか…。私は、こんなしょーもない悩みじゃなくて、もっとちゃんとした相談に乗って、誰かの役に立ちたいの!
―猫の語りに合わせてのどかが椅子に座るー
猫:(淡々と語る)こいつは「オナヤミソウダンブ」っていうところに所属しているバカな小娘だ。「コウコウセイ」という種族で、吾輩が住み着いているここは「ガッコウ」というらしい。
―のどかが猫の方を向くー
のどか:(喜びながら)あ!いいこと考えた!ねぇねぇ、猫ちゃん!
―猫がそっぽ向くー
(猫が話している後ろでのどかが「ねぇ、ねぇ」と言う)
猫:あ、そうそう。こいつの名前は…。(侮辱混じりに)知らないし、興味ない。もともとニンゲンは好きじゃない。5年間ニンゲンを傍観してきたが、まともなニンゲンは1人も居やしない。こいつもどうせ愚かでわがま…
のどか:(ムスッとしながら)ねぇねぇ!ちょっとー!無視しないでよー!
猫:なんだよ、さっきから大きな声出して…。
のどか:あ!やっとこっち向いてくれたー!猫ちゃんがこのお悩み相談部に来てからもう5日も経つわけじゃん!そろそろ猫ちゃんに名前付けてあげたいなーって思って!
猫:(興味なさそうに)あっそ。
のどか:猫ちゃん黒猫だしー…。「クロ」とかどうかな!
猫:(冷たく)吾輩に名前は必要ない。そんなもの、あっても意味がない。
のどか:(困惑気味)あ、あれ?「クロ」って名前、あんまり好きじゃなかったのかなー…。じゃ、じゃあ!「ジジ」は?!
猫:確かに吾輩も黒猫だが…。(少し苛立ちながら)だから言ってるだろ?名前なんて必要ないんだよ!
のどか:(慌てながら)なんか、怒ってる…?!じゃ、じゃあ「トム」は?!
―のどかが立ち上がるー
猫:あんなドタバタしてる猫と一緒にするな!それに、吾輩はネズミを追いかける趣味は無い!
のどか:これも違う…じゃあ「たま」は?!
猫:それは飼い猫じゃねぇか!吾輩に愉快な飼い主は居ねぇよ!!
のどか:じゃ、じゃあ「ドラえ」…
猫:(全否定)絶対嫌だね!あれはネコの形してるだけのただのロボットじゃねぇか!付けるならもっとマシな名前にしろよ!
のどか:(イラっとしながら)もー!こんなに一生懸命猫ちゃんの名前を考えてあげてるのにー!もう、そんなに大きな声で鳴くんだったら名前なんて付けてあげないんだからね!
猫:(逆ギレ)吾輩がいつお前に「名前を付けてほしい」なんて頼んだんだよ!迷惑極まりない!だからニンゲンは嫌いなんだよ!
のどか:まーたそんな大きな声で鳴いて!怒りたいのはこっちですー!(言い聞かすように)いいですか!猫ちゃん!
猫:なんだよ!
のどか:名前があるっていうことはすごく素敵なことなんだよ!
猫:(呆れ)だから何だって言うんだよ…。
のどか:(熱を込めて語る)「名前」は子供が親から貰う、最初のプレゼントなんだよ!親が子供の為を思って、何日も何日も考えるの!そして、たくさんの素敵な意味を名前に込めて、子供に名前が付く!その子供は、生涯を終えるまでその名前で生きるの!そう思うと、「名前」ってとっても素敵なものだと思わない?!
猫:(反論するように)じゃあどうして吾輩には名前が無いんだよ?その「オヤ」とかいうやつが吾輩に名前を付けてくれなかったっていうのか?名前の無い吾輩にそんなに熱く語られても知らねぇよ。
のどか:うんうん!猫ちゃんもそう思うよね!
猫:思ってねぇよ!
―七希が部室に入ってくるー
七希:(緊張しながら)し、失礼します…。
のどか:(目を輝かせながら)だ〜か〜ら〜!猫ちゃんも名前を付けよう!
猫:(イラっとしながら)だから吾輩には必要ないって言ってんだろ!
七希:(少し声を大きくしながら)あ、あの〜…?
のどか:(ウキウキしながら)うーん…。何がいいかなー?あ!「バロン」とかどう?!
猫:吾輩はニンゲンに恩返しなんてしねぇよ!だから、名前付けるのやめろって!
のどか:じゃあ!(考え込むように)えーっと…、えーっとー…!
七希:あ、あの!
のどか:(驚きながら)わぁー?!
―のどかと猫が七希の方を向くー
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