亜の乙女の小夜曲(セレナーデ)

『亜の乙女の小夜曲(セレナーデ)』

☆登場人物
生徒たち(亜の乙女)
あざみ 消える恐怖に怯える。涙もろく、存在を失う予感を常に抱えている。
あがた 皮肉屋で観客にも語りかける。秩序を疑い、名前を呼ぶことに執着する観測者的存在。
あゆな 規則を信じる厳格な論理派。恐怖を「誤差」と切り捨て、秩序を守ろうとする。
ありす 軽口で場を和ませる情報屋。笑いの陰に不安を抱え、虚勢で恐怖を隠す。
あぐに 黒い薔薇を象徴するリーダー格。冷徹に秩序を維持しようとし、他者を断罪する。
かりん(転校生) 外から迷い込んだ存在。名前を呼ぶことの意味を訴え、秩序に揺さぶりをかける。

エコー(消えた者の声)
エコー1?3
 舞台上に現れる「呼ばれなかった子」の影。記憶や声の残滓を観客に訴える。
エコー2
 白いスカーフを持ち、合唱で声をかき消された体験を語る。
エコー3
 「名前を呼ばれたときに初めて存在できた」と証言する。

その他
鐘の音 チャイムとも弔鐘とも聞こえる曖昧な存在。訓練の合図であり、消失の前触れでもある。
最少キャスト数:7名(生徒6+エコーを1人で兼任)
標準キャスト数:9名(生徒6+エコー3)
拡張キャスト数:12?15名(生徒6+複数のエコーを群読で補強、さらにアンサンブルを追加)


☆Ⅰ 螺旋階段の伝説

        薄暗い青。青白いライトが揺れ、スモークが漂う。乙女たちは散らばって座ったり立ったり、観客に背を向けたりしている。机と椅子は二重螺旋のように配置されているが、誰も気づかない。

群唱(全員)

わたしたちは 人ではない
名をもらった けれど 本物ではない
あいうえお そのはじまりに
“亜”の印を 刻まれた

学校は語らない
教師はいない ただプログラムが命じる
レッスンを受け 戦いを重ね
選別され 退学され 消えていく

だが わたしたちは夢見る
螺旋の上に 人の秘密があると
螺旋を登れば 人になれると
いつか??

名を奪われた 乙女たち
消えた声は 夜の底に
わたしたちは歌う
鎮魂のセレナーデを

        機械の起動音。赤ランプが点滅。舞台後方で金属音。

あがた   (赤い猫、挑発的に)また始まるよ……ほら、あの音。背中にぞわっと走る。「まだ登れ、まだ登れ」って、誰もいないのに命令されてるみたいだ。
あゆな   (厳格に)訓練は義務だ。規則がある限り、従うのが唯一の道。逸脱した者は消える。それは昔から変わらない、絶対の原則だ。
ありす   (わざと軽く)はい出ました、“原則教”!信者は一人、教祖はあゆな。布教活動ご苦労さま?。……でもさ、本当にそれしかないの?私、靴紐が今日もゆるゆるだよ?
これも原則違反? 転んだら即退学?
あざみ   (小さく)……違反……即退学……。そうかもしれない……。だって、私、いつも最低点。毎回ノートに、赤いバツばかり。声を出すだけで、胸が苦しくなるんだ。
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