人魚姫
〜欲しいのは一つだけ〜
人魚姫〜欲しいのは一つだけ〜
―第一場―
 
1.ナレ:いつの頃か、とある海辺の土地での出来事。一人の村娘と豪商(ごうしょう)の息子が恋に落ちた。これは、身分を越えた情熱的な恋の物語ではなく………
 
2.珊瑚(独白):私はずっと待っていた。この海が鳴く場所で…あの人が来てくれるのを、ずっと、ずっと……。
 
3.珊瑚:綺麗な月…波も穏やかだわ…。由行様は今夜も来て下さるかしら…。
 
4.由行:…珊瑚…。
 
5.珊瑚:由行様!今夜も月が綺麗ですね!
 
6.由行:そうだな。……珊瑚、実は…!……いや、なんでもない。
 
7.珊瑚:何か悩み事がお有りなんですか…?
 
8.由行:…いいや、珊瑚の顔を見たら悩み事が全部飛んでいってしまったよ。
 
9.珊瑚:まあ!由行様ったら…。
 
10.由行の母:(遠くから)由行さーん?何処にいるのー?
 
11.由行:あ、母さんだ。見つかったら何を言われるか……珊瑚、今夜はこれで。
 
12.珊瑚:はい。…由行様、明日もまた…お会い出来ますよね?
 
13.由行:え…。
 
14.珊瑚:お会い出来ないんですか…?
 
15.由行:あ…いや…。明日になってみないと何とも言えないな…。
 
16.珊瑚:そう、ですか…。あの、私ここで待っています。
 
17.由行:え…!?
 
18.珊瑚:ずっと、ずっと待ってますから…。
 
19.由行の母:(遠くから)由行さーん?
 
20.珊瑚:大変!由行様、早く行ってさしあげて。
 
21.行:あ、ああ…それじゃあ…。(走り去る)
 
22.珊瑚:……由行様、明日もお待ちしています。(見送る)
 
22.ナレ:珊瑚と由行は、貧しい(まずしい)村娘と豪商(ごうしょう)の子息(しそく)という身分差から、人々に隠れて逢瀬(おうせ)を重ねていた。
 
23.珊瑚:由行様…お慕い(おしたい)しております…。
 
24.ナレ:珊瑚は心から由行を愛していたし、由行の愛を信じていた。
 
25.珊瑚:由行様…私はあなたと一緒にいられるほんの少しの時間が一番幸せです…。
 
26.ナレ:珊瑚はただただ純粋に、疑う事無く由行の愛を信じて、由行の訪れを待つ日々を穏やかに送っていた。

―第二場―
 
1.ナレ:由行は母と共に、贅を尽くした(ぜいをつくした)真砂(まさご)の屋敷へ戻っていた。
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