紫陽花の傘
植物園。
木に囲まれた空間に、ガラスの机と椅子が二脚ある。
机の上にはマグカップが2つ。
酒井は椅子に座ってタブレットをいじっている。
手塚は聴診器を木に当て、バインダーに何かを書き込んでいる。
酒井 どうだ、先生?
手塚 大方、君の言う通りかな。
酒井 …そうか。
手塚 虫とか伝染病じゃなく、これだけ一斉にって言うのは、あんまり見ないね。まるで…。
酒井 まるで?
手塚 …心が弱ってる、って言ったらいいのかな。
酒井 植物にも心があるか。
手塚 議論はまた今度。今は原因と対処を考えたい。
酒井 考察は?
手塚 今の段階じゃ、何も。いろんな可能性がある。
酒井 紫陽花は?
手塚 …咲くよ。でも。
酒井 咲くんだな?
手塚 うん。
酒井 そうか。なら良い。
手塚 …見せてあげたいんだっけ?
酒井 賭けをしている。何色になるか。
手塚 管理人さんは、不正し放題じゃない?
酒井 つまらないことはしない。
手塚 何色に賭けたの?
酒井 赤。相手は青。
手塚 俺は紫にしようかな。
酒井 何を賭ける?
手塚 え、ものがいるの?
酒井 ものでなくとも。
手塚 君は何を賭けたの?
酒井 私が勝ったら、あの子は学校に行く。負けたら、あの子を助手にする。
手塚 …だいぶ、のんびりな賭けだね。俺が入る余地ないし。
酒井 これくらいで良いのさ。人生なんて。
手塚 君が言うの?
酒井 何か問題が?
手塚 良い反面教師には、なるかもしれないけど。
酒井 ほっとけ。
手塚 珍しいね。子どもは嫌いって言ってなかった?
酒井 そこまでガキじゃない。
手塚 確かに。
酒井 責任を負う必要がないくらいは。
手塚 責任?
酒井 私は親でも、ましてや学校の先生でもない。
手塚 そうだね。責任がないから、関わってあげられない。
酒井 …そんなお人好しに見えるなら、眼科に行け。
手塚 言われなくても通ってるよ。
酒井は左胸を押さえる。
酒井 医者、を、変えるんだな。
手塚は酒井を見る。
酒井 …何だ?
手塚 …カルテ、出来たよ。詳細はまた、後日になっちゃうけど。
酒井 あぁ。
手塚は酒井にバインダーを渡す。
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