流れ星・イリュージョン

  公園。夜。
  中央に、ずだ袋。なにやら入っている様子。
  古びた折りたたみの、キャンプの時にでも使いそうな低い椅子が一脚置いてある。
  椅子ではなく、地べたに直接座っているのは瑠璃。上手側。
  奥で、遠く(下手側)を気にしている北上。
  遠くに車の往来の音。

北上  遅いなー。なにやってんだろ、まったく……(言いながら、椅子に座る北上)
瑠璃  北上さん。
北上  なに? もうちょっと待ってね。あいつが来るまで。
瑠璃  うん。ねぇ、今夜、できる?
北上  たぶんね。邪魔が入らなければいいんだけど。
瑠璃  うん……
北上  大丈夫大丈夫。ちゃんとするから、あんたは心配しない。
瑠璃  うん。
北上  あ。暇だから、悪い浦島太郎の話、しよっか。
瑠璃  悪い浦島太郎?
北上  そうそう。ある日ね、悪い浦島太郎が浜辺を歩いていると、おっきな海亀がのんきに昼寝をしておりました。
瑠璃  どして?
北上  前の晩、遅くまで酒を飲んでて二日酔いだったんだな。
瑠璃  ふぅん。
北上  そこらにいた子どもたちが海亀をいじめ始めたんで、悪い浦島太郎は子どもたちを追っ払って、海亀に竜宮城まで連れて行かせました。
瑠璃  海亀さん、二日酔いだったのに大変。
北上  そだね。さて、悪い浦島太郎は、乙姫様をのぞき見しようとして、竜宮城の露天風呂のそばに隠れておりました。するとそこに、なんにも知らない乙姫様が入って来ました。それを見た悪い浦島太郎は……(と、どんどん盛り上がっていきそうな北上)
瑠璃  (さえぎって)北上さん。
北上  はい。
瑠璃  海の中で、どうやって露天風呂に入るの?
北上  (空を見上げて)あ、流れ星。(それはただの言い逃れなのだが)
瑠璃  (本気にして)え? どこどこ?
北上  (本気にされてちょっと困る)ほら、あれ。
瑠璃  どこ?
北上  (後悔し始めている)消えちゃった。
瑠璃  あーあ。惜しかったな。願い事、言えなかった。
北上  そだね……
瑠璃  こんど見つけたらもっと早く教えてね。
北上  うん……(まずかったな、という顔をしている)

  パトカーのサイレンの音が聞こえる。赤い光が公園を斜めに通りすぎて行く。

瑠璃  あ。(身構える)
北上  警察か……
瑠璃  なにかあったのかな。
北上  やだね、物騒で。
瑠璃  大丈夫?
北上  大丈夫。あたしがついてるから。
瑠璃  あ。(なにか聞こえたらしい)
北上  (小声になる)だれか来るね。
瑠璃  隠れる?
北上  しっ。じっとして。

  上手から、聖が小走りに現れる。紳士物の財布を持っている。北上と瑠璃には気づかない。

聖   あー、参った。なんで警察なんか呼ぶかな。ばれたら自分だって困るくせに。
瑠璃  悪い人?
北上  わかんない。待ってて。(ゆっくり背後から聖に近づいていく)
聖   いくら入ってんのかな……まったくもう、だれがあんなオヤジとただでつきあうもんか。(財布をのぞいて)あ、結構入ってる。面倒なこと言ってないで、出すもん出せばいいのに、ケチなこと言っててさ……
北上  (後ろからぬっと顔を出し)こぉんばぁんはぁ。
聖   うわっ。
北上  どうしたのかなぁ?
1/18

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム