夢見る頃を過ぎても

 『夢見る頃を過ぎても』

☆登場人物

アヤ   (40代前半、会社員。少し疲れているが、よく笑う)
ミホ   (40代前半、主婦。控えめだが毒舌もある)
ユウコ   (40代前半、独身。明るく快活)
リサ   (40代前半、フリーランス。冷静で皮肉屋)
少女たち(10代の彼女たち。過去の声を再現する存在)


☆Ⅰ 再会

        居酒屋の個室。中央に鍋。まだ火はついていない。机にはグラスやおし        ぼり。四人が座っている。軽いざわめきと笑い声。
        アヤ、湯呑を手にしながら。

アヤ   ……なんか、変な感じだよね。二十年ぶり? 三十年?
ユウコ   そこまでじゃないでしょ。……いや、そうか。二十年は経ってるよね。
ミホ   久しぶりに見た。みんな顔は……まあ変わってない。
リサ   変わってないって、それ褒めてる? 皮肉?

        少し笑い。気まずくならない程度の間。

アヤ   あのさ。実はこれ、持ってきた。

        カバンから古びた冊子のコピーを出す。机に置くと、ざらついた紙の音。

ミホ   ……なに、それ。
ユウコ   うわ、見覚えある。……あったね、こういうの。インタビュー載ってるやつ。
リサ   (苦笑して)まだ持ってたんだ。物持ちいいね。
アヤ   捨てられなくてさ。ほら、こうやって見返すとさ。

        アヤ、ページを開く。沈黙。ふっと空気が変わる。

☆Ⅱ ブランドと憧れ

        照明が変わり、舞台奥に制服姿の“少女A”の影が現れる。顔は見えな        い。客席後方から、紙袋の擦れる音、金属チェーンが触れ合う音。
        少女Aの影、無言で肩をすくめ、紙袋を置く仕草

アヤ   シャネルとか、グッチとか持ってるのは、婆さんだよ。

        チェーンがかすかに鳴る。影がすっと消える。
        照明が戻る。四人は黙って冊子を見て、すぐに吹き出す。

ユウコ   (堪えきれず笑いながら)言った! これ、確かに言ったよね。
ミホ   (顔を覆いながら)恥ずかしすぎる……。でも、なんか覚えてる。
リサ   (苦い笑み)私たち、言い切ってたね。何も知らないくせに。
アヤ   (真顔で)……でも、私、今はブランドバッグひとつ、ほんとに大事にしてる。  仕事の面接の日は必ず持っていく。……二十年前の私に見せたら、鼻で笑われる  んだろうな。

ミホ   (うつむいて)私は……逆にブランドにすがってるとこあるかも。離婚してから  ね、なんか持ってないと、自分が“普通の女”に見えない気がして。

        短い沈黙。鍋から小さな湯気が上がりはじめる。

ユウコ   (軽く冗談めかして)じゃあさ、今ここでグッチ持ってきたら、全員で土下座       する?

        全員、吹き出す。笑いが収まりかけると、静かな間が残る。

リサ   (ぽつりと)……でも、あの頃の「婆さん」って言葉には、ちょっと羨望も混じ  ってたんだよね。自分には届かない遠さ。
アヤ   (うなずく)うん。結局、届くか届かないかじゃなくて、歳月の方が追いかけて  きた。
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