幻の天守 宝探し奇譚
『幻の天守 ― 宝探し奇譚』
登場人物(7名)
蓮(男子) 巻き込まれ型主人公。存在証明を賭ける。
彩音(女子)生徒会長。秩序の象徴。
美月(女子)皮肉屋。自分の居場所に不安。
楓(女子) 怖がり。失った人の記憶を抱えている。
詩織(女子)影の少女。不思議ちゃん。幽霊と同調する。
幽霊の姫(女子) 忘れられた塔の主。宝そのもの。
先生 クラス主任。最後にちょこっと出てくる。
☆Ⅰ「召集 ― 生徒会室」
夕暮れ。カーテンの隙間から夏の名残の光。外からは遠い蝉の声や最後 の花火の音。
生徒会室。机と椅子。黒板に大きく「旧校舎調査」とチョーク書き。光 が傾き始めている。空気はまだ明るくコミカル。
彩音 聞きなさい、みんな。今日で夏休みは終わり。明日からは二学期。──宿題が残 っていようと、心残りがあろうと、関係ない。二学期は必ず始まる。だからこそ、 今夜……この最後の夜に、私たちはここに集まった。
生徒たちが静まり返り、半ばあきれながらも耳を傾ける。
美月 (小声で)まーた始まった、会長のアジテーション。夏休み最後の夜に肝試しか ……。宿題終わってない人の身にもなってほしいわ。
蓮 (肩をすくめて)でも、最後だからこそだろ?二学期になったら、旧校舎は立入 禁止になる。今しかないんだよ。
楓 (不安げに)…………ほんとに行くの……?夜の旧校舎なんて……誰も近づきた とりあえず、別のソフトにコピーしたからいいかな。くないのに。
詩織 (低く淡々と)だからこそ……声が残ってる。最後の夜に、呼んでるんだよ。
微妙な間。また始まったよと言うような目配せ。
彩音 (深呼吸してから)──さて、これから話すことは極秘。校内広報にも記録には 残さない。でも、生徒会としては避けて通れない案件。……旧校舎の調査を行う。
美月 (すかさず)出たよ、会長の“案件”! なんかカッコよく言うけど、要は肝試 しでしょ。
彩音 違う。ただの肝試しなら放っておく。でも今は噂が広がりすぎてる。──“宝が 眠っている”“幽霊が守っている”。生徒が騒ぎ、教師も困ってる。
楓 (おそるおそる)わ、私も聞いた……。放送部の先輩が言ってた。夜の旧校舎か ら歌声が聞こえて、誰もいないのに窓が……ガタガタ……って。
美月 はいはい、“怪談あるある”。で、次は「白い影が立っていた」パターンでしょ。
楓 (悲鳴気味に)やめてってば……!
蓮が椅子にもたれて足を組み、気だるそうに。
蓮 それで、なんで俺まで呼ばれてんの。俺、生徒会じゃないし。演劇部の作業だっ て残ってんだぞ。
彩音 男子は数が少ない。貴重な戦力よ。“盾”になれるのは、あなたしかいない。
蓮 (不満げに)盾って……俺、丸腰だけど。てか、そもそも宝探しって本気でやる のか?
美月 (茶化すように)男子は金の卵。割れてもオムレツになるだけ。
蓮 ……俺、メニュー扱いかよ。
彩音 (机を叩いて)笑い事じゃない。──もし噂が本当で、旧校舎に何か隠されてい るなら?見過ごせば、学校の名誉に傷がつく。取り壊し工事の前に、我々が調べ る義務があるの。
美月 (肩をすくめ)“名誉”って便利な言葉だよね。でも、正直さ、そんなに大事?
宝があろうが幽霊がいようが、明日の実力テストの方がよっぽど切実。
彩音 (真剣に)あなたは笑うかもしれない。でも私は、本気で守りたい。この学校の 秩序も、ここで学ぶ誇りも。
楓 (不安げに)……でも……本当に出たら? 幽霊とか……。それに、宝って…… 何?
彩音 噂では……“昔の生徒が残した大切なもの”。卒業式の日に渡せなかった手紙。 あるいは……封印された何か。
美月 (急に興味を持ったように身を乗り出す)え、手紙? それロマンチックじゃん。
まさか「初恋のラブレター」とか?──それなら私、ちょっと欲しいかも。
楓 や、やめてよ! 怖いのとロマンチックは別物!
蓮 (ぼそり)でも……もし見つけたら……俺も何か変われるのかな。
意外な真顔に一瞬空気が止まる。彩音は一瞬だけ蓮を見て、言葉を飲み 込む。
窓辺でずっと黙っていた詩織が、ゆっくり振り返る
詩織 ……宝は……声。呼ばれなかった声。閉じ込められた声。聞こえる人にしか…… 届かない。
全員、思わず沈黙する。空気が変わる。
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