猫耳森のナナシ 宮沢賢治入門譚
『笛吹き森のナナシ― 賢治入門譚』

登場人物
ナナシ(主人公。性別不問)
森の風(複数人で群読してもよい。又三郎を思わせる声)
星の声(女子数名でコーラス)
子供たち(「ポラーノの広場」的合唱隊)
車掌/旅人(銀河鉄道要素。兼役可)
ブドリ
ゴーシュ
語り手(ナレーション担当。群読でもよい)


※終わりに細かい登場人物一覧表あり。
※人数多いですが6名~12名で上演可能のはず。上演希望申し込みの際、人数をお知らせいただいたら、配役案をご案内できます。
☆Ⅰプロローグ 第一幕旅立ち

        暗転。風の音。青白い照明が舞台を横切る。木々の影が壁面に揺れる。        群読の声が浮かび上がる。

群読(森の風) 「どっどど どどうど どどうど どどう……」

        『風の又三郎』より。囁き声で重なり、やがて強まる)
        ナナシ登場。まだ白い衣服、何者でもない。震えている。

ナナシ   ……ここはどこ? ぼくは……だれ? 風よ、君は笑ってるの?
風の声A   お前にはまだ名前がない。
ナナシ   名前が……ない?でも、ぼくは確かにここにいるのに!
風の声B   名を持たぬ者は、ただ通り過ぎる。風に吹かれ、森に紛れて、忘れられる。
ナナシ 忘れられる……? そんなの……いやだ!

        風がざわめき、群読が声を重ねる。

群読(森の風)
    お前にはまだ名前がない
    お前にはまだ名前がない……

        奥から又三郎=森の化身が現れる。軽やかだがどこか挑発的。

又三郎   おや、泣きそうな顔だな。名前が欲しいのか?」
ナナシ   欲しい! だって、名前がなければ、誰もぼくを呼べない!
又三郎   呼ばれるのがそんなに大事か?風は呼ばれなくても吹く。木は呼ばれなくても育  つ。
ナナシ でも……人はちがう! 呼ばれなければ、誰も気づいてくれない!
又三郎   (ニヤリとして)じゃあ歌えよ。名前がなくても、歌えば声は届く。
ナナシ   ……歌? でも、何て歌えば……
又三郎   歌はお前の中から湧いてくる。風と一緒に声を放て。

        又三郎が風に向かって呼びかける。群読が詩を唱和する。

群読
 どっどど どどうど……
 風はおおぞらを駆けめぐり、
 畑を渡り、人の心を震わせる!」

ナナシ   ……(ためらいながらも声を合わせる)風よ……ぼくを呼んでくれ!

        風の音が一層強まる。照明が揺れ、森がざわめく。

又三郎   ほら、できるじゃないか。だが──名を持たぬ歌は、いつか消える。名がなけれ  ば、歌は風に紛れてしまう。
ナナシ   ……じゃあ、やっぱり名前が必要なんだ!
又三郎   探すがいい。風は道を教える。だがその名を見つけるのは……お前自身だ。
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