サーキュレート
サーキュレート
登場人物
和人(かずと) 長らく東京で働いていたが、地元に戻ろうとしている。
優里(ゆうり) 地元でずっと暮らしている。離婚してからは実家に戻った。
(ふたりを含めた複数人が幼馴染で、高校卒業までは同じ町に住んでいた。
帰省するたびに顔を合わせることはあったが、コロナ禍以降は集まることもなかった。
地元を離れて20年という節目ということもあり、久々にみんなで集まろうという話になった)
古い日本家屋の一室(優里の家)。縁側から庭が見える。
ちゃぶ台、扇風機、蚊取り線香が焚かれている。
優里、ラフな格好ででうちわをパタパタ仰ぎながら、ちゃぶ台の前に座り、アイスを食べている。
「ピンポーン」というチャイム。優里、無反応。
少し間をおいて、「ピンポンピンポンピンポーン」と連打。
優里「うるさいなあ…はいはい、行きますよー」
優里、アイスをくわえたまま立ち上がり、玄関へ。
しばらくして戻ってくる。
後からスーツ姿の和人、部屋に入ってくる。
和人「暑っ…なんでクーラーつけてないの?」
優里「(アイスを口にくわえたまま)壊れてるの。扇風機オンリー」
和人「マジかよ、修行か! 道場? サウナ?」
優里「扇風機の前に座れば極楽だよ? 座る?」
和人「いやいや、扇風機程度じゃ、俺のこの火照った体は…(ちゃぶ台の向かいに座り、扇風機の風を全身で浴びて)うおおおぉぉぉ…生き返る~」
優里「でしょー」
和人「(扇風機に向かって)ワ~レ~ワ~レ~ハ~宇~宙~人ダ~」
優里「あー、それ昔よくやったやつ!」
和人「楽しいよね」
優里「いやーでも久しぶりだよね」
和人「5年…? 6年ぶり…とか?」
優里「(じっと和人を見る)和人、ずいぶん大人になったねえ」
和人「え、気持ち悪っ! 何?」
優里「顔のシワの深さと…あと、頭皮の主張が強くなった」
和人「そこ!?」
優里「うん。あとネクタイ曲がってるよ」
和人「(慌てて直す)なんか褒められた気がしないけど…」
優里「安心して。まったく褒めてないから」
和人「ひどっ」
和人、結局ネクタイを外す。
しばし沈黙。
扇風機の風の音、蚊取り線香の煙。
和人「(ぽつりと)…懐かしいな、この部屋」
優里「変わってないでしょ。昭和のまま、時が止まってる」
和人「おばちゃんがいなくなってから、誰が住んでんの?」
優里「私」
和人「(驚く)えっ、ひとり?」
優里「他に誰もいないでしょ」
和人「あっ…。あ~~(納得)」
優里「知ってるくせに。もう別れて5年になります!」
和人「うそ、そんなに経つんだ」
優里「早いよねー(アイスの棒を見て)あ、当たり出た!」
和人「(身を乗り出す)マジで!? すごっ! もう1本もらえるじゃん!」
優里「でもあそこの駄菓子屋、平日しかやってないんだよね。しかも夕方4時くらいに閉めちゃう」
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