夜の帳は、まだ。 (25分)
2025年版
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◆ 地元の駅で降りたのは何年振りか。
○ とっちゃん…! とっちゃんだよね…!?
◆ 目の前には自分の記憶にない中年がいた。
○ 俺、分かる? こういち。
◆ …こうちゃん?
○ やっぱりとっちゃんだよね! 久し振り!
◆ 30年振りの再会だった。

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○ ザリガニ獲ろう!
▲ サッカーしよう!
☆ かくれんぼ!
○ とっちゃんは何したい?
◆ 俺は…。
▲ とりあえず運動公園行こう。
◆ 実家の近所には市営の総合運動公園があった。遊具・芝滑り広場・野球場・テニスコー 
  ト・体育館。周辺の子どもたちはよく此処で遊んだ。入ってはいけない施設に何処まで近
  付けるかが勇敢さの証明になっていて、やんちゃな男子は近付くどころか侵入して怒られ
  る。
○ 行こう!
☆ 待ってよー!

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◆ 夢には妙な現実感がある。幼稚園か小学校の頃の会話なのに姿は大人だった。全員同級
  生。とはいえ、実際四人が一度に揃った記憶はない。

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◆ 博子は隣に住んでいた幼馴染み。よくお互いの家を行き来していた。
☆ おばちゃん、ジュースご馳走様。お片付けするね。
母 ありがとう。博子ちゃんは偉いねぇ。
◆ 博子は三兄弟の長女でしっかりしていた。
☆ としくんはお手伝いやんないの?
◆ やる時もあるよ。
母 この子、カレーの時だけ手伝うの。
☆ 作るの?
母 食べた後にお皿を水に浸すのだけやるの。
☆ なんでそれだけやるの?
母 なんかね、お皿に残ったカレーの汚れが水で流れてくのを見るのが好きみたい。
☆ 変なのー。
母 ねぇ、変だよね。
◆ 変と言われたのがショックで次からはカレーの時も手伝わなくなった。
母 博子ちゃんは鼻かむ時ティッシュ一枚なんだよね?
☆ うん。
◆ いっつもそれ言ってくる。
☆ 一枚で大丈夫だよ。
母 だよねぇ。あんた何枚使ってるの。勿体ない。
◆ 鼻をかむのもやめようとした。流石に無理だった。
母 博子ちゃんはピアノも出来るし、凄いねぇ。

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◆ 博子はピアノと書道とスイミングを習っていて、勉強も運動もそれなりに出来た。一週間
  先に生まれた博子は、俺に対しても姉の様な振る舞いをする事が多かった。そんな博子が
  泣くのを見たのは一回だけ。

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☆ としくーん!
◆ 日曜日。博子は補助輪を外した自転車の練習をしていた。
☆ としくんもやったら?
◆ 俺は半年前、「ずっと補助輪でいい!」と練習を途中放棄した。が、何かが成長したの
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