準コンプライアンス違反
準コンプライアンス違反

※映像用のシナリオなので、食い違いなどあれば変更していただいて問題ありません。

   人物
戸田幹雄(32)リポーター
芝崎恭平(33)カメラマン
蛭田光雄(45)
通行人A
通行人B
同僚A
同僚B


〇商店街・道路
   戸田幹雄(32)が通行人Aにマイクを向けている。後方に芝崎恭平(38)がカメラを構えている。
戸田「すみません、少しだけお時間いいですか。街頭インタビューをしています」
通行人A「いいですよ」
戸田「今の政府の方針、例えば経済や外交について、どう思われますか」
通行人A「そうですね……いろいろ言われてますけど、やっぱり私たちが選んだ人たちがしてることですから。信じることが大事だと思います」
   戸田、表情を硬くする。
戸田「すみません。その発言、準コンプライアンス違反です」
通行人A「なんですかそれ?」
戸田「綺麗すぎるというか……やらせと思われちゃうかもしれないので、もう一度お願いできますか? もう少し愚痴とか、そういう部分を出してもらって」
通行人A「あの、別にやらせとかじゃなくて本音で言っただけなんですけど」
戸田「視聴者はそんな風に受け取ってくれないんですよ。すいません。もう一回お願いします」
   手で芝崎に示す戸田。
戸田「テイク2!」
   通行人Aは表情を少し硬くしながらも、話し始める。
   戸田は相づちを控え、慎重に耳を傾けている。
通行人A「正直、政府の方針には納得いかない部分もあります。物価は上がってるし、将来が不安です。でも……それでも、政府の人たちは頑張ってくれてると思います」
   芝崎、静かにうなずきながら撮影を続ける。
   戸田、小さく頷き、満足げに微笑む。
戸田「ありがとうございます。ちょうどいい温度感でした」
通行人A「はあ」
戸田「本当に助かりました。ご協力ありがとうございました」
   戸田、一礼して通行人Aの元を離れる。芝崎も頭を下げてカメラを下ろす。
   ふたり、通りを歩きながら、
戸田「いやあ、ほんと、面倒くさい時代だよな」
芝崎「うん、言葉選び一つで『違反』だもんな。めんどくせえ」
戸田「まあ、誰かのためにやってるってことで」
芝崎「誰かって誰だよ……」
   歩いていくふたりの背中。

〇編集室

   戸田がデスクのモニターで通行人Aの動画を編集している。
   蛭田光雄(45)が近づいてくる。
蛭田「おい、今の『政府の人たちは頑張ってくれてる』のとこ、上から目線に聞こえるぞ」
戸田「ええ、それは……」
蛭田「それでこの人がネットで叩かれたら俺たちの落ち度になる。分かってるのか?」
戸田「自覚はありますが……」
蛭田「いや、分かってない。いつも言ってるだろう、大事なのは温度感。冷たすぎても熱すぎてもいけないんだよ」
戸田「……承知しました」
   蛭田は軽くため息をつき、席に戻る。
   戸田はモニターに視線を戻し、編集を続ける。

〇街角(夕)
   戸田が通行人Bにマイクを向ける。
戸田「政治についてどう思われますか?」
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