怪人の断末魔
表題
怪人の断末魔

作者
草香江夕祐

登場人物   
青年   二十代前半。平凡な格好をしている。ありふれた悩める青年。
先輩   二十代前半~三十代前半。同じく平凡な格好をしている。


ビルの屋上


桜が咲く頃

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開幕 
   第一景
(青年と先輩が登場。青年は紅茶を、先輩は缶コーヒーを持っている。)
青年: 先輩。聞きましたか?
先輩: ん?
青年: 喫茶マキノの店主が亡くなったらしいんですよ。スターゲイジーパイっていう怪人に襲われて。
先輩: ああ、朝のニュースで見たよ。
青年: 怪人が店の中に押し入ってきて、暴れたんですよね。店主はバイトの子たちを逃がすために。・・・店内を映した映像を見たら、もう滅茶苦茶でしたよ。昨日、僕らがランチを食べた席もばらばらにされていて。
先輩: ああ、あれはショックだったな。
青年: いい人だったのになー、店主。よくサービスだよって言って、コーヒーを驕ってもらいましたよね。
先輩: ああ、そうだな(声が震える)。
青年: 昨日までは何も起きない筈と思えた。そんな予感だって、少しもなかった。でも、現実に起っちゃったんですよね。
先輩: そうだ。店主は死ぬ筈はなかった。
青年: 昨日がまるで、十年か二十年か前に思えますよ。なんだか、自分も、昨日の自分とは全然違う人間にすら思えるなあ。
先輩: それは真実かもしれんな。実際、俺たちは、時間を止められないし、過去に戻ることもできない。実際のところ、俺たちは、たった一秒前の自分から、無限の距離の地点にいるんだ。
青年: しかし、僕は今でも、店主の淹れてくれたコーヒーの味は、まざまざと思い出せますよ。
先輩: ああ、俺もだ。


   第二景
(引き続き青年と先輩が談話している。。青年はゆらゆら踊り始める)
先輩: 何しているの?
青年: 見ての通り、ダンスですよ。
先輩: いや、なんで踊ってるんだよ。
青年: (節をつけて)僕はそれでもダンスを踊る~
先輩: は?
青年: (節をつけて)僕はそれでも休まず踊る~
先輩: どうしたの?
青年: 僕らも、こんな下手なダンスみたいなものじゃないかって、最近、思うんですよね。
先輩: へっ、たかだか二十数年生きただけで、解りきったようなことを言うな。
青年: でも、若い頃に人生というものを考えたって悪いことはないでしょう? 朝焼けを見ながら、夕焼けをまざまざと予感することがないと言えますか?
先輩: そりゃ悪いとは言わないが、実際に夕方にならないと、夕焼けの色は分からないのが人生ってやつだよ。
青年: ふん。大人の常套句ですね!
先輩: 何かあったの?
青年: (踊りをやめて)別に、何もないっすよ。ただぼんやりと思っただけです。
先輩: だろうな。そういう漠然とした悩みは、暇じゃなきゃできないからな。
青年: 先輩だって暇じゃないですか。
先輩: ・・・まあ、暇だな。でも、お前みたいにうじうじ考えやしないさ。
青年: へへん。先輩はお気楽ですね~。どうせ僕の気持ちなんか分からないでしょう。
先輩: まあ、そうだな。でも。
青年: でも?
先輩: お前ぐらいの時は、そうやってよく悩んだものさ。でも、いずれは悩まなくなるよ。そういう風に、人間はできているからな。
青年: ふーん。
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