気球を見上げるものたちへ
【登場人物】
○大昇 心/おおのぼり こころ:女
『大昇學苑』學苑長の娘で、高等部の一年生。高校生ながら大人びているが、泣き虫な一面も。幼馴染の衛とは仲が良い様子で、テスト勉強も毎回面倒を見てあげている。學苑の廃校が原因での気がかりなことがあるらしい。
○香坂 シャーロット/こうさか しゃーろっと:女
高等部に通う二年生。日本人の祖母をもつ、イギリスからの留学生。周囲からはシャロと呼ばれ慕われるみんなのお姉さん的存在だが、突拍子もなく心無い発言をすることも。優秀な妹と自分を比べ、逃げるようにして日本にやってきた。
○六華亭 三芽/りっかてい みつめ:女
高等部の二年生で、ゆったりとした口調と独特のマイペースさが特徴のお調子者。制服は酷く気崩しており、もはや私服状態。こう見えて全国模試トップの才女。プロ棋士の父と落語家の母がいるが、二人に板挟みになってそれぞれの世界に勧誘されている。
○磯山 王太/いそやま おうた:男。
大昇學苑高等部生徒会長の二年生。威厳のある名前に似合わず穏やかだが、芯が太く一度決めたことは諦められない。生徒会長としての仕事をそつなくこなし、成績も良い優等生。実家が和菓子屋で、手先が非常に器用だが、継承問題で両親と喧嘩中。
○花京院 衛/かきょういん まもる:男
『大昇幼稚園』からの内部進学生で心の幼馴染。根は真面目で元気だが、大好きなサッカーに打ち込みすぎて、成績は右肩下がり。良くも悪くも、真っ直ぐで鈍感。學苑の廃校後は、サッカーの名門私立に転学することが決まっている。
〇東 楓/あずま かえで:男
高等部の教員。二十代にも見違えるその見た目は學生たちのあこがれ。常に白衣を着ているが、理系科目は担当外の為、ちょっとした変人扱いを受けている。二代目學苑長である心の祖母に救われた経験から、學苑への忠誠心を持つ。
【本編】
場面は閉校式の直前練習。
舞台上には高校生ら五名。王太を除き席に座っている。皆しっかりと前を向いているが、心の表情は固く、どことなく不安を感じさせる。
楓は客席に降り、適当な席に座っている。
演台の前で立ち、声を張る王太。
王太:これより、大昇學苑(おおのぼりがくえん)閉校式を執り行います。司会進行は、大昇學苑高等部生徒会長、磯山王太が務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします
静かに礼をする。
王太:代表生徒、挨拶。大昇學苑高等部、一年。大昇心さん
心:はい
王太と入れ替わるようにして演台へ行き、一枚の紙を開いて文を読み上げる。
心:『柔らかな陽の光が大地を照らし、木々に命を宿した蕾たちは夢溢れんばかりに膨らんでおります。爽やかな春風に身を委ねながら、今日わたくしたちは、大昇學苑に永遠(とわ)の別れを告げなければなりません。この學苑は、わたくしの曽祖母にあたります、大昇學苑初代學苑長、大昇讀子(よみこ)が、すべての大和撫子、大和男児に、向上心のある人間になって欲しいと願い創った由緒正しき学び舎です。来月、四月十二日を迎えれば、學苑は百周年となります。しかし、誠に心苦しいですが、今日を以て、大昇家は学校経営から身を引くこととなります。現學苑長である母の意向をわたくしは受け入れ、皆様にご理解いただく次第でございます。』
浅く礼。
心:………『わたくしは、生まれた時から常に大昇學苑と共に過ごしてまいりました。學苑で生まれ、たくさんの師に逢い、友に恵まれ、仲間に愛されてきました。大切な方達からの愛と、向上心を重んずる一家の意思を無駄にするまいと、十六年にも及ぶ生を全うし勉学に励んでまいりました。ですが、わたくしは、』……私は………
突然うつむき、なかなか顔を上げない心。それをみかねた生徒たちが心を意識する。
衛:心?おい、心
心:………
王太:心さん
心:……ごめんなさい
手で顔を覆う。すかさずシャロと三芽が寄り添う。
シャロ:大丈夫よ、心ちゃん。……この子にはヘビーなお仕事だったかしら
三芽:そうだねえ。やっぱぁ、王太くんがやったほうがいいんじゃない?ほらあ、せーとかいちょーさま、だしぃ?
王太:まあ、そうなるよね
衛:でもっ、學苑長の娘である心がやるからこそ、こう、引き締まるっていうか、なんかこう、あるじゃないですか!
シャロ:どうしてそんなに曖昧なのよ
楓:はいはい、そこまで
楓が二回手を叩き、舞台に歩いてくる。
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