太陽のパロディ
登場人物
太陽   地球を照らす天体。擬人化されている。喋る。性別・年齢・容姿は何でもあり、何でもない(自由)。
少女   十六歳の女子高生。恋人に裏切られて傷心中。両親とは不和。孤独。感情を表に出さないが根は寂しがり屋。
彼氏   (配役なし)十六歳の男子高校生。少女が好意を抱いている。だれにも親切でだれにも残酷。
少女A  十五歳の女子高生。水泳部所属。生真面目な善い生徒。

時代・場所
 二千十四年七月、夏休み直前の期末試験のテスト期間。日本のどこかの公立高等学校のプールサイド。

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   第一景
開幕。水が満たされたプール。テスト期間の午后のため、部活がなく、プールサイドにはだれもいない。プールの側には、白い飛び込み台が建っている。そこへ少女が登場。ぼんやりとプールの水面を眺めている。

少女: だれもいない夏のプールって、不思議。
(プールサイドをゆっくりへめぐりながら、太陽の反映できらきら耀く水面を見つめる。ちょっとだけ彼女は微笑む)
少女: 私、泳げないから、いつもこの水が怖かった。けれど、こうして眺めるぶんには、綺麗なものね。
(そこへ少女Bが登場。後ろから少女に声をかける)
少女A: そこで何をしているんですか!
(少女は振り向いて少女Aを横目に見遣る)
少女A: そこで何をしているんですか?
少女: 何って、別に。プールを眺めていただけよ。
少女A: どうして勝手に入っているんですか?
少女: いけない? 別に立ち入り禁止区域じゃないでしょ、ここ。
少女A: 特別な用事もないのに、勝手に入ってもらっては困ります! それに、今はテスト週間ですよ。何も用事はないはずです。
少女: あなただって、勝手に入っているじゃない。
少女A: 私は水泳部なので、ちゃんと先生に許可をもらっています。今日は部室に忘れ物を取りに来ただけだったんですが、あなたがプールサイドに入っていくのが見えたので、追いかけてきたんです。
少女: そう。ご苦労さま。けど、大丈夫よ。私は別に悪さをするつもりはないから。
少女A: いいえ。出て行ってもらわなくちゃ困ります。
少女: どうしてあなたに指図されなくちゃいけないの? あなたはここの管理者なの?
少女A: いいえ。ただ、早く出て行った方がいいって言っているんです。
少女: どうして?
少女A: もうすぐ、喜多先生が見回りに来るからですよ。あなたも怒られたくないでしょう? 先生、とても厳しい人ですから。
少女: あなた、先生が怖いのね。かわいい。
(少女はくすくす笑う。少女Aは呆れたように溜息を吐く)
少女A: 忠告はしましたからね。あとは好きにしてください。
少女: ありがとう。
少女A: まったく、ひねくれた人ですね。
少女: あなたは、見かけによらず、親切な人ね。
(少女Aが退場。少女はその後ろ姿を見送る。)

第一景、閉幕


   第二景
開幕。プールサイドに少女が一人立っている。その前には、白い飛び込み台が建っている。蝉の声が舞台に響く。

少女: 飛び込み台って高いのね。
(少女は飛び込み台の上を見上げる。ちょうどその上に太陽が昇っているので、彼女はまぶしさに顔をしかめる。)
少女: あそこに上れば、太陽にも手が届きそう。ふふ。でも、あんなに太陽に近づいたら、私、溶けちゃうわ。
(目に手をやりながら、なおも彼女は飛び込み台の上を見つめる)
少女: まぶしい。人間の目って、皮肉なものね。さんさんと耀いている太陽を見つめていると、しだいに視界が暗んでくるんだもの。
(少女は目を伏せて、すこし自嘲めいた笑いを口許にうかべる)
少女: 光がないと、ろくに何も見えないくせに。まぶしすぎると、自分から暗がりに向かおうとする。とんだへそまがりだわ、人間の目も、私も。
(彼女はそのまましばらくじっとしている。その間に、飛び込み台の上に太陽が登場)
太陽: そうでもないさ。
(少女はびっくりして、飛び込み台の上を見上げる)
太陽: 君はへそまがりなんかじゃない。ただちょっと視野が低いだけだ。
少女: ・・・だれ?
太陽: おひかえなすって。お姉さん、見苦しい面体、恐れ入ります。手前、生まれも育ちも、宇宙は名も無き銀河でございます。元はガスと塵芥の集まりから始め、いつしか炎々と燃ゆる天体となりましてからというもの、金星にはじまり、数々の子分の惑星を従えて、いつしか太陽系の大親分という大層な名をあずかり、随分永い間、この渡世をのらりくらりとやって参りました。が、今も昔も天涯孤独な無宿者、今もまた、夜という離ればなれの妻を探して、この星の上をぐるぐるとさすらう未熟のやつがれでございます。姓は省略、名は太陽。どうぞお見知りおかれまして、向後万端ひきたって、お頼み申します。
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