星の降る町、彼の傘。
一人語りver
星の降る町、彼の傘 一人芝居用

登場人物
私・・・大人。女性。

本編


   私が机で書き物をしている

私 これは、私が小学校四年生の時の話です。私は父の仕事で、とある田舎町に引っ越しました。街灯も少なく、バスもあまり通っていないような町です。当時の私は、都会の人間であるとして避けられ、友達も多くはありませんでした。私自身、特に人間関係で深く思い悩む性格ではなく、当時も問題視はしていませんでしたが・・・・・

私 ある冬の日のことです。隣の家に住んでいる同級生の男の子から、流星群を見に行かないかと誘われました。彼とは、比較的仲が良かったこともあり、「うん、いこう」と二つ返事をしました。すると、彼は待ち合わせの場所と時間を言い残して、走り去っていってしまいました。

   私、ページ(紙)をめくる。(音があると嬉しい)

私 私は実は星が好きだったりします。幼稚園の時に、織姫と彦星の物語を聞いて以来、星に夢中です。ずっと好きでした。だから、誘われた時は内心とても嬉しかった。それを態度に出せていたのか、それはもちろん別問題です

私 彼はクラスの人気者でした。女の子からの人気が無いわけではありませんが、どちらかと言えば男の子から好まれる男の子です。明るく活発で・・・・・・好奇心が旺盛だった記憶もあります

私 待ち合わせ場所の、近くの丘に着いた私は天を仰ぎました。晴天。まさに冬の空。空気はどこまでも澄んでおり、雲はなく、流星群を見るには絶好の天気でした。

私 私はいつもより少し厚着をして、少し、おしゃれもしました。

私 彼は私の憧れ、あるいは初恋だったのかもしれません。私とは対照的で快活な彼を、時折教室で眺めては、私はなんともいえない心地よい気持ちになるのです

私 彼は約束の五分前に来ました。いつも通りのアウター、いつも通りのジーンズに、いつも通りの帽子。そして、彼がいつも使っているロゴが入った黒い傘

私 傘。今日の空には雨雲どころか、雲も見えません。私は彼に尋ねました。「なんで傘を持っているの?」
そうすると彼は答えました「星が降るからだ」と

私 私は不思議に思って問いかけました。「星は落ちてはこないよ」そうすると彼はコロコロと笑いながらこう言いました。「引っ越したばかりだから知らないかもしれない。この町は空が綺麗だから、今日は星が降るかも」

私 私は彼の言いたい事が理解できませんでした。しかし、星は降るのだと、胸を張って言う彼に今一度問いかける勇気は持ち合わせていませんでした。私は、星を見る彼の横顔を静かに見ました。

私 「流れ星!」彼は大きな声を出して立ち上がりました。そして、「見た?」と私の方を振り返りました。彼と目があいました。私が「見てたよ」と返すと、彼は満足そうに頷きました。そして、いそいそと傘を広げました

私 先ほど聞けなかった質問を、私はなけなしの勇気を絞って、彼に聞きました。「傘を使ってどうするの?」

私 彼は答えました。「星が落ちてきたら危ないだろ?」

私 私はいまいち納得ができませんでした。どうにか理解しようと頭を働かせていた時です。「傘持ってないのか?」持ってないと答えると、「危ないから俺の傘入れよ」と言いました。

私 ・・・・・・その夜のことはそれきり大した記憶がありません。一つ傘の下にいる距離に何も言えなくなったような、勇気をもう一度振り絞ったような、本当に星が降ったような

私 ここからは私の朧げな記憶です。傘の下で、彼は空を見上げていました。光は空の明りだけであるのに、彼の瞳には光が入り、まぶしく見えました

私 彼の声でもう一度見上げた空は、先ほどよりも鈍く見えました。彼がまぶしいのです・・・・・・

   私、ページ(紙)をめくる。(音があると嬉しい)

私 その翌年、私の引っ越しが決まり、東京へ戻ることとなりました。もう一緒に星を見れないと思うとひどく残念でしたが、彼の「同じ空を見ているから」という言葉を聞いて安心していました

私 そして一年後、東京で見る流星群。その日は雨でした。学校帰り、彼が使っていたような傘をさす男の子をみかけて、私はつい、面影を探してしまいました。

私 それから数十年。あれきり彼とは会っていません。今、彼がどこで、どうしているのかも知りません

   私、書き物をやめて、空を見る

私 いまだに傘を持って星を見ている彼を想像すると少し笑ってしまいます

私 まだ、傘を持って星を見る私は、あまりに未練がましいでしょうか。東京の空はいつも明るいままで、いつまでもあの夜が恋しいのです�
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