雪、恋、手の温度。 (15分)
2025年版
同窓会の誘いが来た。
タイムカプセルを掘り返すらしい。

自分が住んでいた町は学区の果て、あと数百メートル西側だと別の学校に通う事になる地区だ
った。小学校は徒歩通学。暑かろうと寒かろうと6年間毎日片道3kmを歩いた。前世の業に
しか思えなかった。
中学に上がってからは自転車通学。業から解き放たれて逆転した心境でペダルを漕いでいた。
この町は何処へ行こうとしても坂がある。特に学校へ向かう途中、かなりの急勾配を降りて同
じだけまた登る坂があった。だったら平坦でいいじゃないか。

しかもその坂の脇が豚の屠殺場で酷い匂いがした。坂のどちら側から来てどちら側に行くにし
ても、かなりの急勾配を降りて同じだけまた登る。登る時には自転車を立ち漕ぎしながら大量
に息を吸う。地獄だった。業は未だ続いていた。一本隣の大きな国道であれば、平坦。出来れ
ばそちらを通りたかったけれど、親から「学校に届けを出した道以外で事故に遭うと保険が下
りなくなるからね。寄り道したら自分が家族を路頭に迷わせると思いな」と釘を刺されてい
た。

アイツには3年片想いだった。

アイツは線が細くて、鼻の辺りに少しそばかすがあった。小学校の5年・6年の時は同じクラス
だった。髪は元々ロングでポニーテール。水泳の授業の後に乾くまで髪を下ろしてるのを目に
して、なんだか特別なものを見た気がした。中学に入ってからアイツがバッサリと髪を切って
ショートになった時の自分の感想は「あああああ」だった。語彙力を失った。

アイツは友達が多い様には見えなかった。他の女子と喋る姿も記憶にない。とにかく、いつで
も中村さんと一緒にいた。休み時間も遠足もトイレに行くにもいつも中村さんと一緒。自分は
そこに割って入ってまで声を掛ける理由もなく、ただただ視界の片隅にアイツがいると妙に気
持ちが高まる。そんな一方的な関係性のまま、中学では一度も同じクラスにはなれなかった。

次の授業までの小休憩、廊下側の窓からアイツがウチのクラスを覗いていた。今回もアイツは
中村さんに会いに来たんだろうと、自分は思っていた。

「習字道具貸して」
…え?

自分に向かって言われたのだと気付くまで、少し時間が掛かった。

「貸してってば、習字道具」
なんで?
「ウチ、次、習字だから。持ってくんの忘れたの」
他の人から借りればいいじゃん。
「ケチ」
ケチじゃないよ。絶対貸さない。
「超ケチ。借りるね」

アイツが勝手に習字道具を持って行こうとして、引っ張り合いになる。

「離してよー。授業始まっちゃうじゃん」
他の人に頼んだほうが早いって!
「やだよ。もう借りるって決めたんだから、めんどい」
何、その理屈? 貸さないって!
「持ってく!」
持ってくなって!

習字道具を奪い返そうとして、アイツの手を叩く。それでもアイツは離さない。

「痛いってば。暴力反対」
暴力…、じゃないし。一方的に借りようとしたのそっちだし。
「人の手を叩いてごめんなさいは?」
え? 
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