春濤
※脚本を作成するにあたって、和歌山県にある「クジラの町」太地町、ミセスグリーンアップル様の「鯨の唄」からアイデアを頂いています
 
①鮫島凪子(さめじまなぎこ)あだ名はサメコ。海夏人と同級生。故郷 勇魚町のことが嫌い。
②鯨井海夏人(くじらいみなと)町の大地主で町長の息子。心優しく、芯がある。
③鯨井海渡(くじらいかいと)海夏人の弟。いたずら好きの甘えん坊。
④鯨井藤子(くじらいとうこ) 鯨井兄弟の母。
⑤遠野綾子(とおのあやこ) 鯨井家に住み込みで働いている家政婦。鯨井兄弟のことは生まれた時から知っている。
⑥市庭源也(いちばげんや) 北海道から勇魚に引っ越して来た漁師。明るく豪快で温かい人。
  
※海夏人と海渡は、兄弟設定なので一人二役でも出来ます。 
  
場面:回想 鮫島と鯨井の高校3年の冬
  
海のさざなみの音。
  
鮫島 鯨井 制服姿
スポットライトの下 離れて立っている。
  
鮫島&鯨井「僕らのふるさとの海には、クジラが眠っている。」
  
鮫島「ここは和歌山県 紀伊半島南部。このあたりは、はるか大昔から暖かく穏やかな海流地域で、回遊の旅に疲れたクジラが身体を休めるために漂う、美しい楽園だったと言う。」
  
 演出:クジラ 鮫島と鯨井の周りを泳ぐ。
  
 突然 雷のような大きな音。
  
 鯨井「しかし、その楽園は突然の気候変動によって終焉を迎える。海水温が急激に低下し、クジラたちは凍ったまま海底のずっとずっと奥底に沈んでいった。彼らは深い静かな場所で、今も眠りについているらしい。」
  
 クジラ さーっといなくなる。
  
 鮫島「そのクジラたちが眠る海のそばに、港町 勇魚はある。昭和初期には『クジラ伝説』なるものを掲げ、観光業の黄金時代を築いた。あの頃は日本中から多くの人が勇魚に押し寄せたと、祖母は懐かしそうに目を細める。」
  
 鯨井「しかし、今はどうだろう。過去の栄光を嘲笑うかのような、閑散とした景色が広がっているだけ。商店街はシャッター通りと化し、町一番のホテルの外壁にはヒビが入り、蔦が絡まっている。2時間に1本しかこない電車と、ICカードの使えない古い駅。」
  
 鮫島「時代から取り残されたような、町を覆うどんよりと暗く湿った雰囲気は、いつしか人を寄せ付けなくなった。そして、あたしも…..この町を好きになれない1人だ。」
  
 照明 カットアウトからフェードイン
  
 鯨井 床に座って分厚い本を読んでいる。
 鮫島 登場。
  
 鮫島「くーじーらーいー。」
 鯨井「(気づかない)…………。」
 鮫島「くじらいみなとぉ!」
  
 鯨井 鮫島に気づく。
  
 鯨井「……びっ……くりしたぁ。なんだよ、サメコか。」
 鮫島「なんだじゃない。岩西先生が呼んでるの、補習のことで話があるって。」
 鯨井「あ、やべ。そうだった。」
 鮫島「まったく、こんな人気のないところにいないでよ。探すの大変だったんだから。」
 鯨井「ごめん。ここ、静かだから落ち着くんだよね。」
  
 鮫島 鯨井の隣に座る。
  
 鮫島「だけど珍しくない?くじらいが赤点取るなんて。なんかあった?」
 鯨井「いや、AO入試の合格が分かった後だったから、気が抜けちゃって。」
 鮫島「ふうん、そっか。」
  
 鯨井 また本に視線を戻す。
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