無謀
明・サヱは上手、叶は舞台でスタンバイ。
開幕
♪夜
下手よりに文机、行灯を設置。
叶、執筆している。
スポット
叶「違う、こうじゃない。これじゃまた選外だ」
叶、原稿用紙をぐちゃぐちゃに丸め、放り投げる。
叶「やっぱり大した才もないのに作家になるなんて無謀が過ぎたな…」
叶、行灯を消そうとするがとどまる。
叶「いや、もう一度書こう。次は良い出来のものがかけるはずだ」
叶、原稿用紙を探すが見つからない。
叶「無い……? まさか、あれで最後だったのか?」
叶、うなだれる。
叶「ハァ、明日下町で買い足すか……」
叶、行灯を消して下手へ退場。
FO、暗転。
叶、下手で羽織を着る。
♪音量上げる
明・サヱ、上手から入場。
中央より上手側に文具店のセット(商品棚、帳場机、帳場格子)を設置。
明、絵筆を真剣に選ぶ。
サヱ、帳場で明を眺めている。
♪FO
FI(音と同時に)
叶、下手から入場。
サヱ「あら、叶さん。いらっしゃいませ」
叶「ああ、お嬢さん、おはようございます。お父様はお元気ですか?」
サヱ「先日腰を痛めましたが、気は病んでおりませんのでご安心を」
叶「『病は気から』とはよく言ったものですね」
サヱ「そうですねえ。それで、本日は何をお買い求めですか?」
叶「実は昨晩、原稿用紙を切らしてしまって」
サヱ「あ、すみません。近頃物価が上がっているでしょう? それで、私らみたいな下町の店は仕入れるのも難しくなっていて、まだ原稿用紙は置いていないのです。申し訳ございません」
叶「そうでしたか」
サヱ「山の手のほうじゃまだあるらしいんですが……」
叶「山の手かぁ……。家族と鉢合わせでもしたら面倒だな」
明、叶に気づきじっと見る。
叶「原稿用紙はまた後日買いに来ます。あの、インキはございますか。そちらも切らしてしまったので」
サヱ「ああ、それならございます。少々お待ちになってください」
サヱ、上手へ退場。
叶、明の視線に気づく。
明、視線を絵筆に戻す。
サヱ「(戻ってきて)叶さんお待たせしました。こちらのインキでよろしかったでしょうか」
叶「あ、ありがとうございます。これでお願いします」
サヱ「では、三十銭になります」
叶「(払いながら)あの青年は?」
サヱ「ああ、あの学生さん、画家の卵なんだそうです。朝一番にいらっしゃって今までああやって熱心に絵筆を選んでいらっしゃるんですよ」
叶「そういうことでしたか。なにかに熱心なのは良いことです」
サヱ「そうですねぇ。はい、商品です。まいどありがとうございました」
叶、店を出る。
明「あ、待ってくれ」
叶「はい?」
明、絵筆を店に戻して叶に駆け寄る
サヱ、不思議そうに眺める
明「叶さんって言ったか、アンタ」
叶「ええ」
明「俺、叶さんに頼みがあるんだ」
叶「私に?」
明「ああ。さっき、あの人に聞いたと思うが、俺は画家を目指してるんだ」
叶「ええ、そう聞きました」
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