んから始まる言葉
◇登場人物
 ・秋山(24)……学習塾の社員。元演劇部部長。
 ・佐伯(17)……演劇部副部長。
 ・市村(17)……演劇部員。
 ・朋美(14)……秋山の学習塾に通う生徒。
 ・老人(60)……謎の老人。
 ・男……劇場の清掃員。
 ・上司(声のみ)……秋山の上司。



 開幕。
 舞台中央、四つの机が向かい合って置かれている。
 秋山と朋美、向かい合って座っている。
 秋山は客席を正面に座り、朋美は客席を背に座っている。

秋山「(にこやかに、饒舌に)朋美さん、夏からだいぶ上がってきましたね! 受験までラストスパート、冬期講習までは、理科と社会の予習が重要です。というのも、他の受験生も塾に通ったり、受験対策をしたりしているわけで……どうしても復習に目が行きがちですが、ここでこの先の予習をしておくと、ぐんと差をつけられる。そして冬期講習では、これまで身につけた知識をフル活用して、一気に過去問演習を……」

 ゆっくりと暗転。
 秋山の台詞も、合わせてフェードアウト。
 代わって、居酒屋の騒々しい音が溢れる。
 上司と秋山の声。

上司「やるなー、二年目―!」
秋山「そーれほどでもありますよー!」
上司「調子に乗って、お前はー!」
秋山「長谷さんに褒められて伸びてるってことでしょー?」

 上司と秋山、酔いに任せた下品な笑い声を響かせる。
 ゆっくりと明転。
 舞台中央に、ほんのりとスポットが垂れている。
 秋山、舞台の前をふらふらと歩いてくる。
 ふと顔を上げ、

秋山「(ぼんやりと)こんな所に、劇場なんてあったっけ……」

 と、舞台によじ登る。
 スポットの中に立ち、上を見上げる。

秋山「月明かり……(ふっと微笑んで)ロマンチックじゃないですかあ」

 と、鞄を置き、スポットライトの中に駆け込む。

秋山「『私たちの物語は終わらせない! この想像力がある限り!』」

 と、くすりと微笑んで、

秋山「長谷さーん、私はねえ、高校演劇やってたんですよ。しかも部長! この小さな光の中で、私は何者にだってなれた……」

 と、頭上に手を掲げ、月明かりを見つめる。
 ゆっくりと暗転。
 遠くから、佐伯と市村の声が聞こえる。

佐伯・市村「あ、え、い、う、え、お、あ、お、か、け、き、く、け、こ、か、こ、さ、し、す、せ、そ、さ、そ、た、て、ち、つ、て、と、た、と、な、ね、に、ぬ、ね、の、な、の!(段々大きく、最後は叫ぶように)」

 勢いよく明転。
 向かい合わされた四つの机、窓を模した張りぼてが二つ、といった、簡素な教室のセットが舞台に出来上がっている。
 秋山は、中央スポットの場所で眠っていた。
 突然明るくなった舞台に、眩しそうにしながら起き上がる。
 上手から、佐伯と市村が話しながら入ってくる。
1/10

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム