シンギュラリティ
【シンギュラリティ】
作 宝井 直人         
主な登場人物 老婆
       青年
       研究員
       カタギリ
       エミリー

 (人工的な広い荒野。車いすに佇む老婆。そこへ無機質な表情をした青年がやってくる。)

老婆   ・・・待っていたわ。

青年  いえ・・・・ここは。

老婆   墓場よ

青年  ・・・そうですか。

老婆   君の「夢」に出てくる少女について。知っていることを全て話す。

青年  あの夢は、彼女は一体なんなんですか。

老婆   彼女の名前は「エミリー・ヒイズル」。私と同じ研究所にいたカタギリの姪。

青年  ・・・エミリー

老婆   30年以上昔の話、私はロボットビジネスの大手企業の研究員として、ロボットの研究に人生を捧げていた。カタギリとはそこで出会った。

青年  そうだったんですね。

老婆   同じ穴のムジナ。彼もまた、私と同様、ロボットの研究に人生を注いでいた。カタギリも研究以外何もない奴だと思っていた。でも、そうではなかった。彼には「エミリー」という存在があったんだ。

青年  エミリー

老婆   エミリーはカタギリの姉の娘。エミリーが思春期を迎える頃、彼女の両親は病に犯されこの世を去った。決して治療できない病気ではなかったけどね。

青年  なぜ、助からなかったのですか?

老婆   お金よ。治療するためのお金が用意できなかったの。人生を2回繰り返すほどのね。

青年  そうですか。

老婆   その後、彼女はカタギリに引き取られることになった。カタギリは親の代わりのように面倒を見ていた。
     すごく礼儀正しくて大人しい子だった。カタギリに似て、口数も少なかったけどね。

青年  ・・・

老婆   二人は本当に親子のようだった。でも、それから数年後、彼女は不幸に巻き込まれ、この世を去った。

青年  そうですか。

老婆   不幸の知らせが届いた夜、カタギリは一人研究室でうなだれていた。彼はひどくやつれていたわ。普段感情を表に出すような奴じゃ無かったから、余計にそう感じた。

 (時は遡り、老婆の回想。とある研究室、生気を失い佇む男性。その男性に向かって女性が語り掛ける)

研究員  カタギリ・・・

カタギリ ・・・俺は、お前のように、ロボットへの情熱はないんだ。

研究員  ・・・そう。
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