ちゃんと理解しなくていいから

ちゃんと理解しなくていいから
   作・木漏れ日


    登場人物

堂本 悠太 (どうもと ゆうた)
伊深 芙美花(いみ ふみか)
速根 隼雄 (はやね はやお)
代手 想子 (かわて そうこ)
前田 説子 (まえだ せつこ)
琴葉 絢  (ことば あや)
出口 繕  (でぐち つくろう)
駒田 舞太 (こまた まいた)
菊季 梨  (きくき なし)



      ここはとある小劇場、「ディオニーソス」。
      舞台には誰もいない。
      ロビーの方から、声が聞こえてくる。

前田   ですから、今日はあれが精一杯だったんですよ。
     とにかく、本日の公演は終了しましたから、お願いですから、おかえりください。
     責任者!?責任者というかその…あれだ、あの…座長!座長がですね、連絡が付かなくなってしまった張本人でして…
     はい…はい。あ、あの、私も終演後の作業がありますので…勘弁してください。
     で!は!失礼します!

      ロビー側の扉を開けて、前田が入ってくる。
      閉めた扉に背中を預けて、大きくため息。

前田   あ、なぜ私が謝っていたかといいますとね。
     説明しますね。あ私、前田説子と申します。
     今日は劇団「1687メートル」の第6回公演、「自動生成フランケンシュタイン」の…えーと…

      前田は腰に差し込んでいた「高校演劇入門」を取り出し、ページをめくる。
      本には色とりどりの付箋が付いている。

前田   「千秋楽」!最後日の、最後の公演だったんですけど…主役の俳優と連絡がつかなくなってしまったんです。
     最初はね、寝坊しただけかな、とか携帯が壊れちゃっただけで、もうちょっとしたら劇場に姿を表してくれるんじゃないかな、なんて思ってたんですけど、ついぞ現れることはなく…
     でも、あの、最後のヤツ、なんだっけ…千秋楽に穴を開けるなんて思ってないから、ギリギリまで待つことにして。
     ひとまず今いる人たちで練習したり、確認作業をしてました。私は、受付で配るアンケートとチラシのセットを準備しながら、それを観てました。
     それにしても、堂本さんはなんでこないんだろう。だって、主演をやってるだけじゃなくて、演出で、台本の作者でもあって、そもそも座長なんですよ!?
     そんな人がなんで…ってもしかして事故とか!?
     なんて思っているうちに上演時間が近づいて、劇場の外にお客さんが集まってきちゃっていたのです。

      舞台の一番奥の袖から、堂本が出てくる。
      こっっっそりと。

堂本   前田さん。
前田   あ…え?
堂本   どうも。
前田   堂本さん。
堂本   …どうも。
前田   無事だったんですか。
堂本   ああ、うん。
前田   さっき、終わったところなんですよ。
堂本   公演?
前田   はい。
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